油脂の変敗

変敗とは、食品が本来の性質を失い、食用に耐えられないような状態になることです。腐敗の他、酸化などを包括した概念になります。

油脂は、空気中の酸素と接触することで自動酸化を引き起こします。これが油脂の変敗の原因となります。油脂の酸化機構はかなり詳しく分かっているので以下に詳しく説明します。

まず、トリアシルグリセロールが加水分解され、遊離脂肪酸(R-H)が発生します。次に、特に不飽和(構造式中に二重結合や三重結合があること)だと進行しやすいのですが、R – H の H が光や熱の存在下で引きぬかれます。開始反応とも呼ばれます。この結果脂肪酸ラジカル(R・)が生成されます。

次に、R・と空気中の酸素(O2)との反応で、ペルオキシラジカル(RCOO・)が生成されます。RCOO・は、遊離脂肪酸のHを引きぬくことでヒドロペルオキシド(RCOOH)が生成されます。この時、遊離脂肪酸の H を引きぬくことで R・ が生成されるため一連の反応は終わることなく連鎖的に続いていきます。

ヒドロペルオキシドはその後様々な代謝を受け、二次生成物とされるカルボニル化合物やマロンジアルデヒトといったものに代謝されていきます。このような変敗の機構における様々な中間生成物に注目した様々な油脂の変質試験が現実に行われています。

代表的な油脂の変質試験として、ヨウ素価、過酸化物価、チオバルビツール酸試験値があります。
時間と共にこの値が下がるか、上がるかといった大雑把な動きが重要です。

ヨウ素価は、油脂中の不飽和部分の量を示します。変敗していくと、どんどん酸化していくことから、不飽和な部分はどんどん飽和されていきます。よって、時間が経つとこの値は下がります。

チオバルビツール酸試験値は、変敗の最後の方で出てくるマロンジアルデヒト等の量を示します。よって、変敗していくとこの値はどんどん上がっていきます。

最後に、過酸化物価ですが、この値は過酸化物、すなわちヒドロペルオキシド(RCOOH)の量を示します。よって、変敗する過程においてまずは上昇するのですが、だんだんヒドロペルオキシドも分解されていくため時間がかなり経つと今度は下がってきます。油脂の変質試験において唯一、時間と共に上がって下がるという挙動を示します。この試験には、チオ硫酸ナトリウムが用いられます。

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