本の内容を簡単に…
今回紹介する本は、「新薬の狩人たち ――成功率0.1%の探求」です。
この本は次のような章立てで、紀元前からすでに始まっていた薬の探求(創薬)の歴史について詳しく書かれています。薬学の歴史は植物採集に始まり、有機合成、薬理学、細菌、遺伝子操作…と、時代ごとに大きく形を変えています。
ペニシリンやアスピリン、インスリンといった有名な薬は、どの時代にどのような経緯で生まれ、多くの人に使われる薬として育っていったのか…そのことが詳しく、そしてわかりやすく書かれています。
- イントロダクション バベルの図書館を探索する
- たやすいので原始人でもできる ―新薬探索の嘘みたいな起源
- キンコン伯爵夫人の治療薬 ―植物性医薬品ライブラリー
- スタンダード・オイルとスタンダード・エーテル ―工業化医薬品ライブラリー
- 藍色や深紅色やスミレ色 ―合成医薬品ライブラリー
- 魔法の弾丸 ―薬の実際の働きが解明される
- 命を奪う薬 ―医薬品規制の悲劇的な誕生
- 新薬探索のオフィシャルマニュアル ―薬理学が科学になる
- サルバルサンを超えて ―土壌由来医薬品ライブラリー
- ブタからの特効薬 ―バイオ医薬品ライブラリー
- 青い死からβ遮断薬へ ―疫学関連医薬品ライブラリー
- ピル ―大手製薬企業の外で金脈を掘り当てたドラッグハンター
- 謎の治療薬 ―まぐれ当たりによる薬の発見
- ドラッグハンターの未来 ―シボレー・ボルトと『ローン・レンジャー』
著者はこんな方
著者はドナルド・R・キルシュ(Donald R. Kirsch)さん。この本のテーマでもある「新薬の研究者(本書ではドラッグハンターと呼んでいます)」として、製薬業界で40年余りの長い年月を過ごしている方です。
ちなみに翻訳は、寺町朋子さんです。この方は京都大学の薬学部卒で、卒業後は薬の研究開発の仕事にも携わっていました。そのため、ただ英語が堪能であるだけでなく、薬学や新薬研究のことにも詳しいので、本書は非常に優れた訳書となっています。
おすすめのポイント
創薬の歴史、または、新薬の研究者にスポットを当てた本は何冊もありますが、この本は筋書きの構成や展開の仕方がとても上手で、いくつか読んだ似たようなテーマの本の中では、読み物として最も面白かったです。
新薬を生み出した成果や原因だけでなく、失敗(成功の礎となる失敗ではなく悪い意味での失敗)や過ち(副作用に気づいててスルーするなど)といった負の面についてもきちんと語られていて、決して右肩上がりではなかった創薬の軌跡を学ぶことができます。
また、個々に存在する薬学史のトピックを寄せ集めただけではなく、きちんと一つの大きな流れ(=創薬の歴史)を読み取りやすいのが本書の特徴です。一つの時代が何故終わったのか、次の時代はどのように到来したのか…前の章と次の章の間をスムーズにつなぐのは、類似の本ではあまり見られない好ポイントだと思います。
あと、ところどころで薬に関する雑学が書かれているのも本書の魅力の一つです。たとえば、ロシュ社・ノバルティス社・メルク社といった欧州の大手製薬企業の多くがなぜライン川流域に本社を構えているのか、欧米では道路でつばや痰を吐くのがなぜ違法なのか…といった小ネタの答えを知ることができます。
こんな人におすすめ!
- 創薬の歴史を学びたい人
- 薬学に関連する面白い読み物を探している人
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