電解質溶液において、溶液中のイオンが移動する際、全電流に対する陽イオンと陰イオンの寄与の割合のことをイオンの輸率といいます。(イオンの移動速度が異なるってことです!)
こんな値に注目したきっかけは、イオンの大きさの違いと言われています。高校の化学で学んだ電気分解を思い出すとよいのですが、電気分解において、陽極、陰極において酸化還元反応がおきます。これにより、電子の流れが生まれて、電流が流れますが、この電子は現実的にはイオンによって運ばれていると捉えることができます。
具体例として、水の電気分解をあげます。負極において、2H+ + 2eー → H2
という還元反応がおきますが、これは水素イオンという溶液中にいる電子の運び手に電子が乗り込んだというイメージで捉えることができます。
同様に、陽極において、2O2ー → O2 + 2eー という酸化反応がおきますが、これは溶液における、金属板への電子の送り手である O2ー が電子を金属板へと送り込んだというイメージで捉えることができます。
このように、電子の流れをイオンが担っているとした時、それぞれのイオンには大小の違いがあるのだからそれぞれのイオンが均等に電子の流れを担ってはいないだろうということで考えたのが、輸率という概念です。(イメージとしては、電子という荷物を、色んな体の人間が運んでいたら運んでいる人間によって速度が違うだろうぐらいのイメージです。)
すなわち、1Fの電流が流れた(1mol のeーが流れた)時、その電流が流れるために寄与した陽イオンの割合を陽イオンの輸率:t+ 、寄与した陰イオンの割合を陰イオンの輸率:tー と考えたのです。
この輸率という概念を実際に測定しようとすると、単なる電気分解の装置では多少の陽イオンと陰イオンの寄与の違いにより溶液中にイオン濃度の勾配ができたとしても、すぐに拡散により均一な濃度になってしまいます。
そこで、イオンの移動する溶液部分を極端に細くかつくねくねと曲がったものにすれば移動の影響を測定することができると考え、M 字型の試験管を用いて電気分解を行なって陽極槽の塩濃度と陰極槽の塩濃度を測定することにより初めて輸率を実際に測定したのがヒットルフです。輸率はヒットルフが最初に測定法を開発したので、ヒットルフ数とも呼ばれます。
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