問 題
62歳女性。身長160cm、体重45kg。体表面積1.5m2。20歳から60歳まで1日10本喫煙していた。精査の結果、病期分類T2N2M0の肺がん(病理組織型X)と診断された。
臨床検査所見:
【末梢血検査】WBC 4,300/μL、Hb 10.4g/dL、Plt 15万/μL
【生化学検査】クレアチニンクリアランス 75mL/min
【腫瘍マーカー】CEA 4.8ng/mL(正常値 5ng/mL以下)、SCC 0.2ng/mL(正常値 1.5ng/mL未満)、NSE 69.9ng/mL(正常値 9ng/mL以下)
問300
この患者の病態と治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 腫瘍増殖速度は極めて遅い。
- 非小細胞肺がんが疑われる。
- 重要な危険因子は喫煙である。
- イリノテカン塩酸塩が治療薬の一つとして用いられる。
- ゲフィチニブが治療薬の一つとして用いられる。
問301
この患者に以下のがん化学療法を実施することになった。化学療法に関する記述のうち、適切なのはどれか。2つ選べ。
- エトポシドの投与量は、この患者の体表面積から算出する。
- 処方1は、経時的に結晶が析出することがあるので、希釈をしないでそのまま急速静脈内投与するように提案した。
- 処方1の投与には、ポリ塩化ビニル製の点滴セットを使用する。
- カルボプラチンの投与量は、目標とする血中薬物濃度時間曲線下面積(AUC)を決めて、カルバートの式を用いて計算する。
- カルボプラチンの副作用を軽減させるために、投与後1日3,000mL以上の輸液を投与するように処方提案した。
正解.
問300:3, 4
問301:1, 4
解 説
問300
肺がんは、大きく非小細胞性肺がんと小細胞性肺がんに分類されます。非小細胞性肺がんは、さらに 腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん に分類されます。
NSE が高いことから、小細胞性がんであることが疑われます。小細胞性がんは、特に増殖が速いことが知られています。よって、選択肢 1,2 は誤りです。ちなみに、SCC は扁平上皮がんの有無を推測する腫瘍マーカーです。
選択肢 3,4 は正しい記述です。
選択肢 5 ですが
ゲフィチニブ(イレッサ)は、非小細胞性肺がんの治療薬です。小細胞性がんが疑われる本症例においては治療薬として用いられません。
以上より、正解は 3,4 です。
補足
肺がんの進行度合い(病期、ステージ)は、TNM 分類により分類されます。T が、がんの大きさと周囲への広がり具合を示します。T1~T4 に分類されます。N が、リンパ節転移があるかどうかです。転移がなければ N0 で、ほかは、どこまで転移しているかで、N1 ~ N3 に分類されます。M は、遠隔転移があるかどうかです。遠隔転移がなければM0です。あればM1 に分類されます。補足 終わり
問301
選択肢 1 は正しい記述です。
多くの抗がん剤の投与量は体表面積毎で評点されています。エトポシドも、その一つです。
選択肢 2 ですが
エトポシドは、急速静脈内投与により一過性の血圧低下や、不整脈が報告されています。そのため、30~60分かけてゆっくり点滴静注するよう指示されています。よって、選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
可塑剤として DEHP を含むポリ塩化ビニル(PVC)製の点滴セットを用いるとDEHP が溶出することが知られています。PVC フリーの点滴セットを使用するべきです。よって、選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は、その通りの記述です。
抗がん剤の投与量決定方法の中でもカルボプラチンの投与量の算出は特徴的です。血小板減少が、AUC と相関する点 及び AUC が、腎機能と相関する点 に基づき、体表面積ではなく、腎機能を指標とした投与量の算出が行われます。
カルバートの式とは、投与量=AUC(目標値) ×(GFR+25) のことです。※ GFR = 糸球体ろ過値 → 一般的には、Ccr で代用します。
選択肢 5 ですが
副作用軽減のための輸液が必要なのはシスプラチンです。カルボプラチンでは、必要ありません。よって、選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 1,4 です。
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