薬剤師国家試験 第100回 問108 過去問解説

 問 題     

合成したインドメタシンの構造解析を1H-NMR(400MHz、CDCl3、基準物質はTMS)によって行った。図Aは、1H-NMRスペクトルである。なお、ア~ウ及びキのシグナルは、一重線である。構造解析結果に関する記述のうち正しいのはどれか。2つ選べ。

なお、カルボキシ基の水素のシグナルは図A中では観測されていない。

  1. 基準物質として用いられるTMSは、トリメチルシランである。
  2. インドール環2位のメチル基のシグナルは、図Aのアである。
  3. インドール環4位の水素のシグナルは、図Aのカである。
  4. CDCl3の重水素のシグナルは、図Aのキである。
  5. 図Aのオのシグナルとクのシグナルは互いにカップリングしている。

 

 

 

 

 

正解.2, 3

 解 説     

選択肢 1 の TMS は「トリメチルシラン」ではなく、「テトラメチルシラン」です。トリメチルシランだと、(CH3)3SiH となるので、2 種類の水素が存在してしまい、図のような 1 本の線になりません。テトラメチルシランだと、Si(CH3)4 となり、全ての水素が等価になるので、チャートにあるようなシングレットになります。

選択肢 2 は芳香環に結合しているメチル基なので、これは 2~3 ppm になるはずなので、図Aの「ア」に対応します。もしくは、もうひとつのメチル基(インドール環5位のメトキシ基)が酸素の隣なので 3~4 ppm くらいになるはずなので、こちらの 3H が図Aの「ウ」に対応するため、インドール環 2 位のメチル基は「ア」になる、と考えても良いです。

選択肢 3 は芳香環に直接結合している水素なので、6~8 ppm あたりにくるはずです(図Aの「エ」~「ケ」)。ここで、「ク」と「ケ」はそれぞれ 2H 分あるので、これはインドール環のほうではなく、フェニル基の2’位と3’位です。また、「キ」は H の数が書いてありませんが、この 7.26ppm 付近にあるシングレットのピークは、溶媒であるクロロホルムのピークです。そのため、目的の化合物には関係ありません。

続いて、「エ」と「オ」は両方ともピークがダブレット(「エ」はダブルダブレットに見えます)なので、これらはインドール環6位と7位に対応します。つまり、残る「カ」のシングレット(構造的には遠いが立体的に近い水素の影響で、多少割れて見えますが…)が、インドール環4位の水素に対応することになります。

選択肢 4 は選択肢 3 の説明の通り、「キ」の位置で合っているのですが、1H-NMRが検出するのは重水素(D)ではなく、普通の水素(H)です。ここで、溶媒である重クロロホルムはたくさんの重水素(D)を持っていますが、わずかに水素(H)も含んでいます。この水素(H)を検出したのが図Aの「キ」であるので、これは重水素(D)のシグナルとはいえません。重水素は 1H-NMRでは検出できない(できてしまうと困る)ので、チャートには載ってきません。

選択肢 5 は選択肢 3 の説明の通り、「オ」はインドール環側で、「ク」はフェニル基側の水素なので、その距離は随分離れているため、カップリングは起こりません。

以上より、正解は 2 と 3 になります。

コメント