薬剤師国家試験 第110回 問162-163 過去問解説

 問 題     

50 歳男性。営業職で飲酒の機会が多く、5 年間で体重は 8 kg増加した。健診にて 4 年前より高血糖を指摘されていたが、放置していた。

最近、口渇と頻尿を認めるようになったため病院を受診し検査を受けた結果、2 型糖尿病と診断された。服薬歴なし。喫煙 20 本/日。運動習慣はない。

問162

この患者の身体所見及び検査値は以下のとおりである。

身長 175 cm、体重 80 kg、血圧 146/94 mmHg、脈拍 62 拍/分、下腿に浮腫はない。

尿検査:糖 (3+)、尿タンパク (±)、潜血 (-)、ケトン体 (-)、尿アルブミン/クレアチニン比 90 mg/gCr

血液検査:空腹時血糖 182 mg/dL、HbA1c 8.4%、LDL-C 162 mg/dL、TG (トリグリセリド) 230 mg/dL、HDL-C 38 mg/dL、尿酸 5.8 mg/dL、血清クレアチニン 0.8 mg/dL、BUN 12 mg/dL、eGFR 81 mL/min/1.73m2、Na 142 mEq/L、Cl 102 mEq/L、K 4.2 mEq/L

眼底検査:異常なし

本患者において 2 型糖尿病に合併しているのはどれか。2 つ選べ。

  1. 糖尿病性腎症
  2. 単純網膜症
  3. 病型分類Ⅰ型の脂質異常症
  4. 高尿酸血症
  5. 肥満症

問163

糖尿病治療薬に関する記述として、正しいのはどれか。2 つ選べ。

  1. グリクラジドは、ATP 感受性 Kチャネルを開口して、膵臓ランゲルハンス島 β 細胞からのインスリン分泌を促進する。
  2. ピオグリタゾンは、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体 α (PPARα) を刺激して、アディポネクチンの分泌を低下させる。
  3. ボグリボースは、小腸上皮細胞に存在する α – グルコシダーゼを阻害して、単糖類の生成を抑制する。
  4. ルセオグリフロジンは、ナトリウム-グルコース共輸送体 2 (SGLT2) を阻害して、近位尿細管におけるグルコースの再吸収を抑制する。
  5. イメグリミンは、インクレチンの分解を抑制して、膵臓ランゲルハンス島 α 細胞からのグルカゴン分泌を促進する。

 

 

 

 

 

正解.
問162:1, 5
問163:3, 4

 解 説     

問162

選択肢 1,5 を正しいと判断したい問題です。


選択肢 1 は妥当です。

糖尿病性腎症の初期では尿にタンパクが少し出始めます。初期以降、尿にタンパクがより多く出る → 血中タンパク質減少し、むくみなどが目立ち始める → 糸球体ろ過量減少していくといった流れで進行していきます。

尿検査で尿タンパクが ±、尿アルブミン/クレアチニン比 が少し上昇していること から、初期の糖尿病性腎症を合併していると考えられます。


選択肢 2 ですが

眼底検査異常なしとあります。それ以外、眼について情報が得られないことから単純網膜症を合併していると判断する根拠が見られません。選択肢 2 は誤りです。


選択肢 3 ですが

基準値と比較して、LDL – C 高値、TG 高値、HDL – C 低値 です。「脂質異常症」であることはわかるのですが、脂質異常症の病型分類について覚えていないと判断できない選択肢です。誤りなのですが、本番では保留がおすすめです。頑張って細かい部分まで覚えようとせず、余裕がある時に確認しておけばよいと思われます。深入りしないこと推奨です。


選択肢 4 ですが

尿酸値が 5.8 mg/dL なので、高尿酸血症ではありません。選択肢 4 は誤りです。


選択肢 5 は妥当です。

肥満は BMI 25 以上です。BMI 35 以上を高度肥満と呼びます。一方「肥満症」は、肥満に加えて合併症がある or 腹囲が 男性 85, 女性 90 cm 以上 のことです。

本症例の男性は腹囲不明ですが
「BMI 25 以上+糖尿病」なので、肥満症です。

※ BMI は、身長を「m」になおして 2 乗した数値で体重を割って求めます。1.752 = 3.0625 なので、大体 3.1 です。80 ÷ 3.1 ≒ 26 となります。


以上より、問 162 の正解は 1,5 です。

問163

選択肢 1 ですが
グリクラジドは SU 薬です。SU 薬の作用機序は、まず膵臓の β 細胞膜の SU 受容体に結合します。SU 受容体結合後、ATP 感受性 K+ チャネルが閉じる → 膜の脱分極 → 膜電位依存性 Ca2+ チャネルが開く → 細胞内 Ca2+ 濃度が上昇 → インスリン分泌促進 という流れです。ATP 感受性 K+ チャネルを「開口」ではありません。選択肢 1 は誤りです。


選択肢 2 ですが
ピオグリタゾンは、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体 γ (PPARγ) を活性化することで、脂肪細胞の分化を促進します。「ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体 α (PPAR α) 」ではありません。選択肢 2 は誤りです。


選択肢 3,4 は妥当です。
代表的 α – GI であるボグリボース、及び、SGLT2 阻害薬の ◯◯グリフロジンについての記述です。


選択肢 5 ですが
インクレチンの分解抑制は DPP – 4 阻害薬 ◯◯グリプチンです。イメグリミンではありません。

また、グルカゴン分泌で血糖値は「上昇」します。そのため、糖尿病治療薬である DPP – 4 阻害薬は、グルカゴン分泌を「抑制」します。選択肢 5 は誤りです。


以上より、問 163 の正解は 3,4 です。

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