問 題
50 歳男性。4 ケ月前に、僧帽弁閉鎖不全症に対して、自己の僧帽弁を温存する僧帽弁形成術が施行された。その後、外来で経過観察を行っていたが、継続する 38 ℃ 台の発熱、手掌や足底に紅斑が認められ、精査目的で入院となった。
入院時施行された経食道心エコーでは、僧帽弁周囲に疣贅 (ゆうぜい、疣腫) が認められた。原因微生物を同定するため血液培養検査を実施した結果、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌が検出されたため、感染性心内膜炎と診断された。脳膿瘍や髄膜炎の合併症は認められなかった。
主治医からの依頼があり、抗菌薬適正使用支援チームとして介入することとなった。
(入院時検査所見)
白血球 12,500/μL、CRP 7.5mg/dL(基準値0.14mg/dL以下)、Hb 15.6g/dL、AST 25IU/L、ALT 15IU/L、BUN 16.3mg/dL、血清クレアチニン 0.85mg/dL、尿タンパク (-)、尿潜血 (-)
問292
この患者の合併症と治療に関する記述として、正しいのはどれか。2 つ選べ。
- 貧血の所見があり、出血性病変の合併が疑われる。
- 腎機能が低下し、腎梗塞の合併が疑われる。
- 疣贅による僧帽弁の障害により、心不全を合併するリスクがある。
- 脳塞栓症よりも、肺塞栓症を合併するリスクが高い。
- 血液培養の結果から、抗菌薬としてセファゾリンが推奨される。
問293
この患者の抗菌薬を用いた治療において、抗菌薬適正使用支援チームが主治医に助言する内容として最も適切なのはどれか。2 つ選べ。
- 指定感染症であるため、速やかに保健所に届出をする。
- 治療効果確認のための血液培養検体は、複数セット採取する。
- 治療効果確認のための血液検体採取は、次回抗菌薬点滴開始直前に行う。
- 血液培養により陰性化が確認された場合、速やかに抗菌薬治療を終了する。
- 血液培養結果が陽性であっても、CRP が基準値内まで低下すれば抗菌薬治療を終了する。
問292:3, 5
問293:2, 3
解 説
問292
僧帽弁は、心臓左心房と左心室の間にある、2 枚の弁尖 (前尖:ぜんせん、後尖:こうせん) でできた弁です。
感染性心内膜炎では、イボ状構造 (疣贅(ゆうぜい) ) = 細菌の塊 が心内膜にできて、剥がれ落ちた部分が血流に乗り、様々な部分で塞栓を生じます。放置は死につながる疾患です。エコー検査+血液培養で検査し、確定した場合、数週間の高用量抗生物質投与を行います。
選択肢 1 ですが
Hb は基準値 (男性:13 ~ 17、女性 12 ~ 14 程度が目安) 内であり、特に貧血所見はありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
BUN、血清クレアチニン 共に基準値内 (BUN:8 ~ 20、血清クレアチニン:男性:0.6 ~ 1.1mg/dL、女性:0.4 ~ 0.8 mg/dL) です。「腎機能の低下」は疑われません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 は妥当です。
イボが大きくなって弁をふさいだり、弁がボロボロになる → 弁が機能しなくなる → 心不全という流れです。
選択肢 4 ですが
左心房と左心室の間にある弁周囲にイボがあるので、左心室からつながる「大動脈から全身へ流れる血液」に菌のかたまりが含まれる可能性があります。そのため、肺塞栓ではなく脳塞栓のリスクが高いと考えられます。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は妥当です。
セファゾリンは、第一世代セフェム系抗菌薬です。セフェム系抗菌薬とは、β-ラクタム系抗菌薬の一種です。β-ラクタム系抗菌薬は、細胞壁合成阻害薬です。
「メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptible Staphylococcus aureus:MSSA)」による菌血症に対して、本試験時点でセファゾリンは第一推奨薬です。
以上より、問 292 の正解は 3,5 です。
類題 106-296297
https://yaku-tik.com/yakugaku/106-296/
問293
選択肢 1 ですが
感染性心内膜炎は指定感染症ではありません。指定感染症とは、感染症法が定義する中で「既知」、「一 ~ 三類 及び 新型インフルエンザ等感染症ではない」、かつ「感染症法の該当する規定の全部又は一部を準用しないと、当該疾病まん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある」かつ「政令で定めた」もののことです。
ものすごくざっくり言うと「一類感染症の エボラ とかと比べて、比較的大した感染症じゃないと思ってたしそういう区分にしてたら、なんかやばくなったやつを 慌てて政令で名指しした感染症」です。ちなみに、感染症法において、指定感染症のように「なんかやばい」「未知」の感染症は「新感染症」として定義されています。
選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2,3 は妥当です。
治療効果確認についての記述です。
選択肢 4,5 ですが
感染性心内膜炎はしっかり菌をたたくのが大切です。そのため、血液培養で陰性化が確認されても一定期間は抗菌薬治療が継続されます。また、血液検査培養が陽性であれば、治療が継続されると考えられます。選択肢 4,5 は誤りです。
以上より、問 293 の正解は 2,3 です。

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