薬剤師国家試験 第110回 問302-303 過去問解説

 問 題     

75 歳男性。慢性胃炎の既往がある。2 年前に脳梗塞を発症し、それ以来、処方 1 及び処方 2 の薬剤を継続的に服用している。

咳と嗄声が続き、血痰を認めたため近医を受診し、胸部 X 線で右肺腫瘤を指摘された。総合病院呼吸器内科を紹介受診し、入院して精査した結果、Stage ⅣB の非小細胞肺がん (腺がん) と診断された。

遺伝子検査も実施され、EGFR 遺伝子変異陽性と判明した。パフォーマンスステータス (PS) 1。患者に喫煙歴はなく、機会飲酒のみ。

外来通院治療を強く希望したため、ゲフィチニブ (処方 3) での治療を開始することになり、処方 1、処方 2 とも総合病院で一括して処方することになった。

状態が安定したら退院し、処方 1 ~ 3 の薬剤での治療を継続する予定である。

問302

この患者の病態と治療に関する記述として、正しいのはどれか。2 つ選べ。

  1. 肺野部に発生することが多いがんである。
  2. 発症前と同じ日常生活が制限なく行える。
  3. 他臓器に遠隔転移している。
  4. 手術での根治切除が可能である。
  5. 腫瘍マーカーとして、SCC 抗原 (squamous cell carcinoma related antigen) が用いられる。

問303

処方 3 の開始にあたり、病棟薬剤師の対応として、適切なのはどれか。2 つ選べ。

  1. ゲフィチニブによる手足症候群を予防するため、レボフロキサシンの追加を医師に提案する。
  2. レバミピドをオメプラゾールに変更するよう医師に処方提案する。
  3. プロトロンビン時間が延長する可能性があるので、ワルファリンカリウムの用量調節を医師に提案する。
  4. 退院後の服薬時に息切れ、呼吸困難、発熱などの症状が現れたらすぐに受診するよう、患者に説明する。
  5. ゲフィチニブの効果を減弱させる可能性があるため、グレープフルーツジュースの摂取を避けるよう患者に説明する。

 

 

 

 

 

正解.
問302:1, 3
問303:3, 4

 解 説     

問302

選択肢 1 は妥当です。
肺野部は、肺の奥の方 末端部分のことです。X 線で腫瘍を見つけやすい部位です。一方、肺門部は、気管支が左右に分かれて入る 肺の中心部 入口付近 です。喀痰検査などで腫瘍が見つけやすい部位です。


選択肢 2 ですが

PS 1 なので「肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能、軽作業や座っての作業は可能」です。つまり「日常生活が制限なく行える」ではありません。選択肢 2 は誤りです。


選択肢 3 は妥当です。

Stage Ⅳ とあるため、他臓器に遠隔転移しています。


選択肢 4 ですが

転移が見られるため、手術での根治切除は不可能と考えられます。選択肢 4 は誤りです。


選択肢 5 ですが

SCC 抗原は、子宮頸がん、食道がんなど 扁平上皮がん が疑われる際に用いられる腫瘍マーカーです。肺がんには、肺門部にできやすい肺扁平上皮がんもありますが、本症例は「非小細胞肺がん (腺がん) なので、扁平上皮がんではありません。従って、SCC 抗原は腫瘍マーカーとして不適切です。選択肢 5 は誤りです。


以上より、問 302 の正解は 1,3 です。

問303

選択肢 1 ですが
手足症候群は、抗がん剤や分子標的薬が正常な細胞に作用し、手足の皮膚や爪の細胞が障害されることにより生じます。代表的症状は、手のひら、足の裏が赤くなる、痛みが生じる、かかとがカサカサするなどです。対処として、ヒルドイド軟膏や ビタミン B6 内服等が用いられます。レボフロキサシンの追加は不適切です。選択肢 1 は誤りです。


選択肢 2 ですが
ゲフィチニブは、EGFR チロシンキナーゼ阻害薬の一種です。PPI や H2 受容体拮抗薬との併用により、胃酸 pH が持続的上昇 → AUC 低下 が知られています。そのため、レバミピド → PPI である オメプラゾール への変更は不適切と考えられます。選択肢 2 は誤りです。


選択肢 3 は妥当です。

プロトロンビン時間(PT)は、血液に Ca2+ と組織トロンボプラスチンを添加し、フィブリンが析出するまでの時間を測定する検査です。イメージとしては、血を採って、試薬を加えて固まるまでの時間を測るという検査です。血液凝固系の異常を検査する方法です。基準値は、PT:10~14 秒です。

ゲフィチニブとワルファリン併用時は、定期的にプロトロンビン時間又は PT – INR のモニターを行います。


選択肢 4 は妥当です。

息切れ、呼吸困難、発熱などは間質性肺炎の初期症状の可能性があるため、説明をします。


選択肢 5 ですが

ゲフィチニブは 主に CYP 3A4 代謝なので、GFJ (グレープフルーツジュース) 摂取によりCYP 阻害 → ゲフィチニブの血中濃度上昇 → 効果「増強」の可能性があります。「減弱」ではありません。選択肢 5 は誤りです。


以上より、問 303 の正解は 3,4 です。

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