問 題
78 歳女性。大腸がんに対して、5 年前から化学療法が実施されていたが、副作用、本人の体力の低下から 3 ヶ月前に中止となった。今回、食物摂取による誤嚥性肺炎のため入院となり、せん妄状態である。
これまでも誤嚥性肺炎のための入院と退院を繰り返しており、1 ヶ月前から経口での食物摂取が困難となることが多く、家族が大変苦労していたとのことであった。
患者は夫と死別しており、キーパーソンである一人息子が延命治療を望んでいる。
持参薬等の所有物を確認したところ、患者本人が書いたリビングウィルの文書がお薬手帳に折り込まれていた。病状が末期の時には延命治療を希望しないという文章にチェックが入れられていた。文書作成の日付は、約 2 年前であった。
問304
この患者への栄養補給に関する記述として、正しいのはどれか。2 つ選べ。
- 胃瘻が選択肢となるのは、生命予後が 1 ヶ月以上見込まれる場合である。
- 中心静脈栄養を実施しても消化吸収機能が維持できる。
- 中心静脈栄養は胃瘻よりも感染リスクが高い。
- 胃瘻を造設すると、経口摂取に戻ることはできない。
- せん妄状態であるので、経鼻栄養が適している。
問305
息子と本人の意向が異なっているため、治療方針について、医師、看護師、薬剤師、メディカルソーシャルワーカーなどで構成された倫理コンサルテーションチームでカンファレンスを実施した。
今後の対応として適切でないのはどれか。1 つ選べ。
- 息子にリビングウィルのことを知らせて、家族と医療スタッフの共通認識となるように再度治療方針を話し合う。
- リビングウィルの有無にかかわらず、治療を中止した場合の予後をキーパーソンである息子に理解しやすいように説明する。
- 意識が清明でなくなった時の治療選択について、本人が元気な頃に、何か話し合ったことはないかを息子に確認する。
- リビングウィルの作成年月日が入院時のものではなかったため、医療者の治療方針を優先させる。
- 終末期の治療について、何らかの意思表示がなかったか、かかりつけ薬局に確認をする。
正解.
問304:1, 3
問305:4
解 説
問304
選択肢 1 は妥当です。
胃瘻が選択肢となるのは、「必要な栄養を自発的に摂取できない」、「正常な消化管機能を有している」、「経管栄養の期間が長期に渡ると推測される」といった条件が重なる場合といえます。「生命予後が1ヶ月以上見込まれる場合である」というのは、経管栄養の期間がある程度長期に渡る場合である、という点について、妥当です。
選択肢 2 ですが
中心静脈栄養では、消化管を用いないので、消化吸収機能は維持されません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 は妥当です。
中心静脈栄養両方の方が、ダイレクトに血中に栄養を送り込むので、感染リスクはより高いです。
選択肢 4 ですが
胃ろうの目的は、食事が困難となった人やむせ込みやすい人に対して、負担なく栄養摂取することです。あくまでも自分の力で食べられるようになるまでのサポートという位置づけが原則といえます。胃瘻を増設すると、経口摂取に戻れない、ということはありません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 ですが
自己抜去の可能性が高まるため、適切ではありません。選択肢 5 は誤りです。
以上より、問 304 の正解は 1,3 です。
問305
選択肢 4 が明らかに不適切と判断したい問題です。
リビングウィルの作成日が約 2 年前だったのであれば、現在お気持ちが変わっていないかを確認したり、キーパーソンである息子さんに、2年前にこういった意思を示していたことを共有して治療方針を相談する、といった流れが妥当です。そういった確認もなく、医療者の治療方針を優先させる、というのは不適切と考えられます。
以上より、正解は 4 です。
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