沈殿滴定

沈殿滴定とは、沈殿反応を利用した定量法です。液体だけでなく、固体も相に現れるという点において特徴的な定量法である、といえます。代表的な方法として、Fajans (ファヤンス) 法、Volhard (フォルハルト) 法、Mohr (モール) 法が知られています。どの方法も、銀イオンと何かによる沈殿が生成します。終点の判断方法として加える試薬 及び 終点の判断できる原理の違いによる分類です。

ファヤンス法は、主な対象として、塩素含有化合物 か ヨウ素含有化合物を対象とします。塩素含有化合物に対しては、指示薬としてフルオレセインナトリウム を加えます。色の変化は、黄緑→紅 です。

ヨウ素含有化合物に対しては、指示薬としてテトラブロモフェノールフタレインエチルエステル
を加えます。色の変化は 黄→緑 です。

滴定の際、ビュレットなどで加えていくのは、AgNO3 液 です。指示薬の色の変化が、できる沈殿に吸着するイオンによるものなので、吸着指示薬法とも呼ばれます。

フォルハルト法は、主な対象として銀含有化合物 を対象とします。(直接法)。銀(や水銀)を、直接測定する方法です。※ 銀を含有しない試料でも、銀イオンと沈殿する陰イオンが含まれる場合は OK です。この場合、間接法と呼ばれます。

指示薬としては、硫酸アンモニウム鉄 (ポイントは、Fe3+)を使います。滴定の際加えるのは、NH4SCN 液です。

まず、直接法について説明します。直接法では、対象となる溶液中の銀イオンと SCN がまず、白色沈殿 AgSCN を生成します。→当量点後は、SCNが過剰となり、指示薬として加えた鉄イオンと、赤色錯イオン(可溶性)を形成し液が赤くなります。

次に、間接法について説明します。まず、硝酸銀を過剰に加えます。→ 対象中の、塩化物イオンなどが、沈殿として生成します。これにより、加えた銀イオンが、ある程度消費されます。次に、直接法と同じことをして銀イオンの量を測定します。すると、始めに加えた銀イオンの量と測定量の差を計算することにより、測定対象の陰イオンの量を求めることができます。

モール法は、主な対象として、塩素含有化合物を対象とします。指示薬が、クロム酸カリウムです。指示薬の濃度が、とても重要です!Clイオンとの沈殿として AgCl と、Ag2CrO4 の溶解度の違いを利用して色の違いにより終点を判断するのですが、指示薬の濃度が薄すぎると当量点になっても沈殿が始まらないし、濃すぎると共沈してしまうため、濃度が重要になります。

また、pH にも注意が必要です。大体 6.5 ~ 10.5 ぐらいの pH でないといけません。というのも、アルカリが強すぎると Ag2O が沈殿してしまうし、酸性が強いとクロム酸カリウムがCr2O72- になって、Ag2CrO4 が溶解してしまい感度が低下してしまうからです。

モール法は、食塩の代表的滴定法なのですが、日本薬局方では、クロム酸イオンが有害であるため使用が中止されています。。

ちなみに、モール法でもファヤンス法でも塩素含有化合物の滴定ができるといったように、同種の化合物に対して、複数の分析方法が存在する意味は何か、という点について、少し補足をしていきます。

これらの分析方法は、歴史的な改良の結果です。より簡便な方法や、より安価な方法などが発達してきた結果といえます。さらに、近年では、環境への配慮という新たな観点や、分析における分光技術の発達に伴う種々の測定方法も発達してきました。

そういった技術の進歩もあり、ドラマの CSI とか見ているとこんな沈殿滴定なんてめったに出てこず大概 LC/MS とか GC/MS とかで分析してるじゃないか。。。→沈殿滴定なんていつ使うの?と考えてしまうかもしれません。。

とはいえ、例えば大規模停電の時や、被災地における簡易分析のために など、目的に応じて、まだまだ現役の分析法 であるという意義があります。

さらには、それぞれの代表的な分析方法とその分析方法を根拠付ける理論の違いを学ぶことにより、新たな理論が生まれた時に、それをどのように応用としての分析技術に適用するか という観点における、重要な先行研究 としての意義もあると考えられます。
以上、補足でした。

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