薬剤師国家試験 第97回 問108 過去問解説

 問 題     

図は日本薬局方医薬品イブプロフェン(ラセミ体)の1H-NMRスペクトル(500MHz,CDCl3)と部分拡大図である。ピークhはCDCl3に含まれる残留CHCl3で、これを7.26ppmとして化学シフトを示している。次の記述のうち、正しいのはどれか。1つ選べ。

  1. 拡大図中のピークaは、アとクがそれぞれシングレット(3H分)のシグナルとして観測されたものである。
  2. 拡大図中のピークbはコのシグナルで、隣接メチンプロトンであるケとのカップリングによりダブレットとして観測されている。
  3. 拡大図中のピークcに対応するプロトンはイである。
  4. 拡大図中のピークeに対応するプロトンはケである。
  5. 拡大図中のピークf、gは、ウ、エ、オ、カのシグナルである。

 

 

 

 

 

正解.5

 解 説     

選択肢 1 ではピーク a がアとクとありますが、これはクとコです。
クとコはその構造上、完全に等価なメチル基であるので、そのピークも重なって現れるはずです(ダブレット)。
また、アについては、隣接炭素に水素(イ)が付いているため、アはダブレットになります。ダブレットで 3H のものはピーク b のみなので、これがアということになります。(ピーク b は3Hと明記してありませんが、他のダブレットには 2H と書いてあるのでそこから判断できます。)アに隣接する炭素に COOH が結合しているため、アのピーク b がやや低磁場側にシフトしています。

選択肢 2 ではピーク b がコとありますが、上述のとおりピーク b はアで、ピークaがコ(+ク)です。後半部分の「ケとのカップリングによりダブレットになる」という記述は正しいです。ちなみに、「メチンプロトン」という言葉は聞きなれないかもしれませんが、これは第三級炭素に付いた水素のことです。-CH2-の構造を「メチレン」と呼んだりしますが、これが第三級になると「メチン」になります。

選択肢 3 ではピーク c がイとありますが、ピーク c はケ、ピーク e がイです。
ケは隣接炭素に付いた水素(クとコ)が計6つあるので、セプテット(七重線)のピークcにあたります。イは隣接炭素に付いた水素(ア)が3つなので、カルテット(四重線)のピーク e となります。イ(ピーク e )は結合炭素の隣に芳香環と COOH があるので、だいぶ低磁場側にシフトしています。

選択肢 4 ではピーク e がケとありますが、ピーク e はイで、ピーク c がケです。これは選択肢 3 の説明のとおりです。

残る選択肢 5 はピーク f、g がウ、エ、オ、カとのことですが、これが正解です。
ウ、エ、オ、カは芳香環上の水素なので、7~8ppm あたりのかなり低磁場にピークが現れます。また、ウとオ、エとカがそれぞれ等価な水素であるため、2H のピークが2つできます。

以上より、正解は 5 です。

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