薬剤師国家試験 第110回 問304-305 過去問解説

 問 題     

58 歳女性。乳がんによる骨転移性疼痛に対して、デノスマブ皮下注とモルヒネ硫酸塩水和物徐放錠にて治療中であった。腰痛の悪化により、モルヒネ硫酸塩水和物徐放錠が増量された。FDG-PET(注) を行ったところ、腰椎に集積像が確認された。

増量後は、疼痛コントロールは良好であったが、日常生活に支障をきたすほどの眠気が増強してきたため来院し、患者希望により緩和ケアチームが関与することになった。来院時の検査値は以下のとおりである。

(注) FDG-PET:Fluorodeoxyglucose-Positron emission tomography (フルオロデオキシグルコース陽電子放出断層撮影)

(検査値)

AST 15IU/L、ALT 16IU/L、BUN 35.0mg/dL、血清クレアチニン 1.6mg/dL、eGFR 26.7mL/min/1.73m2

問304

この患者の腰椎病変に関する記述として、正しいのはどれか。2 つ選べ。

  1. 病変は、乳がんの直接浸潤により生じたと考えられる。
  2. 病変部では、ブドウ糖の取り込みが上昇している。
  3. 脊髄圧迫が生じている可能性が高い。
  4. 症状の緩和には、ビタミン D の摂取が有効である。
  5. 高用量メトトレキサートを中心とした化学療法が奏功する。

問305

緩和ケアチームの薬剤師の対応として、適切なのはどれか。2 つ選べ。

  1. デノスマブ皮下注の投与中は、低カルシウム血症の発現に注意するよう、情報共有する。
  2. デノスマブ皮下注からゾレドロン酸水和物注射液への変更を検討する。
  3. モルヒネ硫酸塩水和物徐放錠の投与中は、QT 延長の副作用の発現に注意するよう、情報共有する。
  4. モルヒネ硫酸塩水和物徐放錠からフェンタニルクエン酸塩テープへの変更を検討する。
  5. モルヒネ硫酸塩水和物徐放錠からロキソプロフェンナトリウム錠への変更を検討する。

 

 

 

 

 

正解.
問304:2, 3
問305:1, 4

 解 説     

問304

選択肢 1 ですが
「浸潤 (しんじゅん)」ではなく「転移」により生じたと考えられます。浸潤は「元々ある場所から周囲の組織に広がること」です。一方、転移は「がん細胞がリンパや血液を介して遠く離れた臓器に到達し、新たながんとして成長する現象」です。選択肢 1 は誤りです。


選択肢 2 は妥当です。

病変部では、ブドウ糖の取り込みが上昇します。


選択肢 3 は妥当です。

腰椎に集積像が確認されていることから、がん細胞が脊椎 (背骨) に転移、増殖していることが推測されます。腫瘍が増殖したり大きくなることで、脊髄が物理的に圧迫されます。


選択肢 4 ですが

骨粗しょう症薬として活性型 ビタミン D 製剤がありますが、本症例は脊髄圧迫の可能性が高いため、症状緩和に ビタミン D の摂取は有効ではないと考えられます。選択肢 4 は誤りです。


選択肢 5 ですが

検査値から eGFR 低値が読み取れます。腎機能低下しています。メトトレキサートは代表的な腎排泄薬であることから、高用量メトトレキサートの使用は不適切と考えられます。選択肢 5 は誤りです。


以上より、問 304 の正解は 2,3 です。

問305

選択肢 1 は妥当です。
デノスマブは、RANKL という破骨細胞の形成、機能などを調節するタンパク質を標的としたモノクローナル抗体です。骨は人体におけるカルシウムの貯蔵庫です。骨からカルシウムを血中に取り出す破骨細胞の機能を抑制するので、注意すべき副作用として「低」カルシウム血症があります。


選択肢 2 ですが

疼痛コントロールは良好、眠気増強で来院なので、増量したモルヒネに関しての検討が必要な状況です。「デノスマブ皮下注からゾレドロン酸水和物注射液への変更」を検討する必要はないと考えられます。選択肢 2 は誤りです。


選択肢 3 ですが

モルヒネ投与中なので呼吸抑制などの副作用に注意するよう、情報共有すべきと考えられます。QT 延長に注意すべきであるものとしてはメサドンがあげられます。選択肢 3 は誤りと思われます。


選択肢 4 は妥当です。


選択肢 5 ですが

モルヒネを増量して疼痛コントロールが良好になった症例なので、モルヒネ (強オピオイド)  → ロキソプロフェン (NSAIDs) では鎮痛効果が弱くなり、疼痛コントロールが期待できないと考えられます。選択肢 5 は誤りです。


以上より、問 305 の正解は 1,4 です。

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