問 題
図は、アラニン誘導体 A の 1H NMR スペクトル〔400 MHz、CDCl3、基準物質はテトラメチルシラン(TMS)〕を示している。以下の記述のうち、正しいのはどれか。2 つ選べ。
なお、× 印のシグナルは CDCl3 中に含まれる CHCl3 のプロトンに由来するシグナルであり、f のピークは重水 (D2O) を添加するとほぼ消失した。


- ピーク a、b、c のプロトン数の合計は 6 である。
- ピーク e に対応するプロトンは エ であり、重水を加えると四重線 (カルテット) となる。
- ピーク g に対応するプロトンは カ と キ である。
- ア のプロトンとカップリング (スピン-スピン結合) しているのは、ピーク d に対応するプロトンである。
- イ のプロトンのピークは、コ のプロトンのシグナルより高磁場側にある。
解 説
選択肢 1 ですが
a のピークは 隣接炭素に H が 2 コであり、ほぼ ppm が 1.0 なので「ア」のプロトンと対応すると読み取れます。a のプロトン数が 3 です。選択肢 5 の解説で述べる通り、c のピークと対応するのが 「コ」のプロトンです。c のプロトン数も 3 です。これで a,b,c の合計が 6 よりも大きくなるとわかるので、選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 は妥当です。
ヘテロ原子 (O や N や S など) に直接結合した水素は、重水の添加によって置換されて 1H-NMR スペクトルからシグナルが消失します。また、隣接する H が 1 個減るため、ピーク e の分裂が 1 つ減って、5 重線 → 4 重線になります。
選択肢 3 ですが
ピーク g,h はそれぞれ キ、ケ 及び カ、ク の水素と対応していると考えられます。「カとキ」の組み合わせではありません。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は妥当です。
ア のプロトンとカップリングしているのは、イ のプロトンです。イのプロトンが伸びている炭素は 隣が O なので、4.0 ppm 付近のピークが対応します。そして、隣接炭素の H が 3 つなので、4 重線のピークである ピーク d が イのプロトンです。
選択肢 5 ですが
「高磁場側」=NMR スペクトルの右側です。
イ と コ のプロトンは共に伸びている炭素が O と隣接しています。そのため、ピークは 4.0 ppm 付近に共に出ると考えられます。
そして、コ は プロトンが伸びている炭素の隣接炭素に 水素がありません。そのためピークはシャープな一本線です。
一方、イ は プロトンが伸びている炭素の隣接炭素に H が 3 つあるため、ピークは 4 本に分割すると考えられます。4.0 ppm 付近のピークである c,d,e に注目すると、シャープなピークが一番右側の c です。
つまり、c が コ のプロトンピークと対応して高磁場側です。「イ のプロトンピークが、コ のプロトンのシグナルより高磁場」ではありません。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 2,4 です。

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