問 題
39 歳、閉経前女性。身長 155 cm、体重 43 kg、体表面積 1.38 m2。右乳房に腫瘤を触知し、乳腺外科を受診、針生検の結果、T1N1M0 の StageⅡA の右乳がんと診断され、入院した。
右乳房部分切除術、センチネルリンパ節生検及び腋窩リンパ節郭清を実施した。術後の検査所見は以下のとおりであった。
(検査所見)
リンパ節転移 6 個、エストロゲン受容体 (ER) 陽性、プロゲステロン受容体 (PgR) 陽性、HER2 (ヒト上皮増殖因子受容体2型) 陰性、AST 20 IU/L、ALT 17 IU/L、血清クレアチニン 0.88 mg/dL、BUN 18 mg/dL、白血球 5,600/μL、赤血球 368×104/μL、Hb 11.2g/dL、血小板 28×104/μL、好中球 4,500/μL
今回この患者に以下の術後薬物療法を施行することとなった。
問264
この患者の術後薬物療法に用いられる薬物Aとして、適切なのはどれか。1 つ選べ。
- アナストロゾール
- エキセメスタン
- エンザルタミド
- タモキシフェン
- ラパチニブ
問265
処方 1 又は処方 2 の薬物の抗がん作用の機序として、正しいのはどれか。2 つ選べ。
- 視床下部の ER を刺激して、GnRH (性腺刺激ホルモン放出ホルモン) の分泌を抑制する。
- 下垂体の GnRH 受容体のダウンレギュレーションを起こすことで、ゴナドトロピンの分泌を抑制する。
- 脂肪組織において、アロマターゼを阻害して、エストロゲンの生成を抑制する。
- 乳がん組織の ER において、エストロゲンに拮抗する。
- HER2 に結合して、乳がん細胞の増殖を抑制する。
問266
この患者への薬物治療に関して、病棟の症例検討カンファレンスに参加している研修医向けに発表して欲しいと病棟担当薬剤師へ依頼があった。
カンファレンスにおける薬剤師の発表内容として、適切なのはどれか。2 つ選べ。
- 処方 1 の薬剤の服用により子宮体がん (子宮内膜がん) のリスクが高まることがあり、本剤投与中及び投与終了後の患者は定期的に検査を行うことが望ましい。
- 処方 2 の薬剤の投与により、うつ状態が現れることがあり、症状悪化時には SSRI 等の抗うつ薬の追加処方を検討する。
- 処方 2 の薬剤の投与により、骨疼痛の一過性増悪がみられることがあり、このような症状が現れた場合には、ビスホスホネート製剤の投与を行う。
- 今回の薬物治療に際して患者が妊娠していないことを確認し、また治療期間中は低用量経口避妊薬による避妊法を用いる。
- 今回の薬物治療により骨密度の低下がみられることがあるので、長期にわたり投与する場合は骨密度の検査を実施する。
問267
処方 2 の製剤に関する記述として、正しいのはどれか。2 つ選べ。
- 乳酸・グリコール酸共重合体が使用されている。
- 高分子で薬物結晶をコーティングしている。
- マトリックスを形成している高分子が分解することにより薬物を放出する。
- 自己乳化型マイクロエマルション製剤である。
- 粉末部の薬剤を液体部の溶液で溶解して使用する製剤である。
正解.
問264:4
問265:2, 4
問266:1, 5
問267:1, 3
解 説
問264
選択肢 1,2 ですが
アナストロゾールは、アロマターゼ阻害剤です。また、エキセメスタンはアロマターゼ阻害薬です。アロマターゼ阻害剤は 閉経後乳がんに用いられます。本症例は閉経前なので不適切です。選択肢 1,2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
エンザルタミド (イクスタンジ) は、前立腺がん治療薬です。本症例は乳がんなので不適切です。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は妥当です。
タモキシフェンは、乳腺のエストロゲン受容体 (ER) に対して拮抗作用を有するため、ER 陽性乳がんの治療薬として用いられます。
選択肢 5 ですが
ラパチニブ (タイケルブ) は、ヒト上皮増殖因子受容体 2 型 (HER2) 過剰発現が確認された場合に用います。本症例は HER2 陰性なので不適切です。選択肢 5 は誤りです。
以上より、問 264 の正解は 4 です。
問265
処方 1:タモキシフェン は
乳腺のエストロゲン受容体 (ER) に対して拮抗作用を有します。選択肢 4 が対応します。
処方 2:リュープロレリンは
性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gn-RH :gonadotropin-releasing hormone)誘導体です。反復投与により、下垂体における Gn-RH 受容体が脱感作をおこし性ホルモン分泌を抑制します。選択肢 2 が対応します。
以上より、問 265 の正解は 2,4 です。
問266
選択肢 1 は妥当です。
処方 1 のタモキシフェンに関する記述です。
選択肢 2,3 ですが
処方 2 のリュープロレリンは、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gn-RH :gonadotropin-releasing hormone)誘導体です。そのため、更年期様症状のうつ状態があらわれることもあります。うつ症状悪化時の処方として、SSRI はタモキシフェンと併用注意なので避けるべきです。選択肢 2 は適切ではありません。
また、リュープロレリンにより骨疼痛の一過性増悪が見られます。一時的なものですが、辛いときには痛み止めを使います。ビスホスホネート製剤の投与は不適切です。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
リュープロレリンは、妊婦又は妊娠している可能性のある女性、及び授乳中の女性には禁忌です。治療期間中は妊娠を避けます。また、避妊において低用量経口避妊薬などのホルモン剤はリュープロレリンのはたらきに影響する可能性があるため、使用しません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は妥当です。
骨密度検査についての記述です。
以上より、問 266 の正解は 1,5 です。
問267
処方 2 は、リュープロレリン酢酸塩を含有する 乳酸・グリコール酸共重合体を用いた、高分子中に粒子を分散させた 注射剤です。
選択肢 1 は妥当です。
リュープロレリン酢酸塩についての記述です。
選択肢 2 ですが
高分子によるコーティングといえば、デンプンによる糖衣錠などがあります。徐放性コーティングもあるのですが、注射剤キットでは解けてしまって意味がなく、誤りと判断できるのではないでしょうか。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 は妥当です。
高分子中に粒子を分散させたり溶解させた マトリックス型 の放出に関する記述です。
選択肢 4 ですが
自己乳化型マイクロエマルション製剤といえば、シクロスポリンです。リュープロレリンについての記述ではありません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 ですが
懸濁性の注射液です。粉末部を溶解して使用する製剤ではありません。選択肢 5 は誤りです。
以上より、問 267 の正解は 1,3 です。
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