問 題
78 歳女性。夫と 2 人暮らしであるが、半年前から物の置き忘れやしまい忘れをするようになった。3 ケ月前から誰もいない庭を指さして「子供たちが遊んでいる。」などと言うようになった。睡眠中に大声を出して、手足をばたつかせることがあるが、本人に自覚はない。
心配した夫に連れられ病院を受診した。診察時、受け答えは良好であったが、歩行は小刻み様であった。日付や場所の見当識が一部曖昧であり、ミニメンタルステート検査は 30 点満点中 23 点であった。また、脳血流 SPECT により後頭葉の血流低下が認められた。
問154
この患者に関する記述のうち、正しいのはどれか。2 つ選べ。
- 前頭葉に著明な萎縮が生じている。
- パーキンソン症状が認められる。
- 脳梗塞によって二次的に発症した可能性が高い。
- 幻視や REM 睡眠行動異常が認められる。
- 症状は階段状に悪化する。
問155
この患者の症状改善を目的として使用される可能性のある薬物に関する記述のうち、正しいのはどれか。2 つ選べ。
- ブロモクリプチンは、線条体においてドパミン D2 受容体を刺激することで、間接路の GABA 作動性神経を抑制する。
- ゾニサミドは、グルタミン酸 AMPA 受容体を刺激することで、ドパミン作動性神経を亢進させる。
- カルビドパは、ドパミン β – ヒドロキシラーゼを阻害することで、レボドパの脳内移行を高める。
- ドネペジルは、アセチルコリンエステラーゼを阻害することで、アミロイド β タンパク質の分解を促進する。
- クロナゼパムは、γ – アミノ酪酸 GABAA 受容体のベンゾジアゼピン結合部位に結合することで、GABA による Cl- チャネルの開口を促進する。
正解.
問154:2, 4
問155:1, 5
解 説
問154
もの忘れ、幻視から認知症、歩行の小刻み様からパーキンソン症状が見られる症例です。
選択肢 1 ですが
前頭葉 や 側頭葉の萎縮が見られる 前頭側頭型認知症 (ピック病) についての記述です。この患者についての記述ではないと考えられます。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 は妥当です。
歩行が小刻み様である という部分が対応します。
選択肢 3 ですが
脳梗塞を示唆する記述はありません。選択肢 3 は誤りと考えられます。
選択肢 4 は妥当です。
誰もいない庭についての記述が幻視、自覚のない睡眠中の行動が REM 睡眠行動異常と対応します。
選択肢 5 ですが
脳血管性の認知症についての記述です。選択肢 5 は誤りです。
以上より、問 154 の正解は 2,4 です。
問155
選択肢 1 は妥当です。
ブロモクリプチンは、麦角アルカロイドの一種です。ドパミン受容体刺激薬です。パーキンソン病治療薬として使用されます。
選択肢 2 ですが
ゾニサミドは様々な機序を介して作用する抗てんかん薬です。パーキンソン病にも用いられます。ドパミン合成促進や、神経細胞保護作用などを有するようです。AMPA 受容体刺激によるわけではないと考えられます。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
カルビドパは、末梢性芳香族 L – アミノ酸デカルボキシラーゼ阻害薬です。L – DOPA(レボドパ)が、末梢でドパミンに変換されるのを抑制します。「ヒドロキシラーゼ阻害」ではありません。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
ドネペジルは、中枢のアセチルコリンエステラーゼを阻害し、低下したコリン作動性神経伝達を促進します。「アミロイド β タンパク質の分解を促進する」わけではありません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は妥当です。
クロナゼパム (リボトリール) は、Bz(ベンゾジアゼピン)系の薬です。GABAA 受容体の Bz 結合部位に結合し、GABA 神経系の活動性を高めます。
以上より、問 155 の正解は 1,5 です。
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