問 題
ヒト免疫不全ウイルス (HIV) 感染と薬害エイズに関する以下の問いに答えよ。
問120
血友病の治療のために投与された非加熱血液製剤により HIV 感染が生じた事例に関連する生物学的知識として、正しいのはどれか。2 つ選べ。
- 遺伝性血友病は X 連鎖潜性 (劣性) 遺伝により生じるため、男性に発症しやすい。
- 血漿中の HIV は加熱処理しなくても、孔径 0.22 μm のメンブレンろ過により除去できる。
- 血液製剤に混入した HIV は、治療を受ける患者の CD8 陽性 T リンパ球に感染する。
- HIV はレトロウイルスであり、プロウイルス化により感染宿主細胞内で長期間潜伏できる。
- HIV 感染による症状として、花びらのように分かれた核を持つ特徴的な腫瘍化 T 細胞がみられるようになる。
問121
図 1 は、国内の HIV 感染者及び AIDS 患者の年間新規報告数の推移を示したものであり、図 2 は、2021 年における国内の HIV 感染者の新規報告の感染経路別内訳である。HIV 感染者の発生動向に関する記述のうち、正しいのはどれか。2 つ選べ。
- 図 1 の A は HIV 感染者で、B は AIDS 患者を表している。
- 2021 年における HIV 感染者と AIDS 患者を合わせた新規報告数に占める AIDS 患者の割合は、約 80 % と高い水準である。
- HIV 感染者年間新規報告数は、男性よりも女性の方が多い。
- 図 2 の経路 ア は、母子感染によるものである。
- 図 2 の経路 イ は、同性間の性的接触によるものである。
問122
血液製剤による感染被害の救済制度に関する記述として、正しいのはどれか。2 つ選べ。
- 適正な使用目的に従い適正に使用された場合の感染被害の救済を目的としている。
- 給付金は、原因となった血液製剤の製造販売業者が全額負担する。
- 医療費給付の対象は、入院を要する程度以上の感染被害である。
- 葬祭料や遺族年金に関する給付項目は含まれていない。
- 製造販売業者の過失が裁判によって証明された場合に救済の対象となる。
正解.
問120:1, 4
問121:1, 5
問122:1, 3
解 説
問120
選択肢 1 は妥当です。
遺伝性血友病は X 連鎖 潜性 (劣性) 遺伝により生じます。そのため、X 染色体を 1 つしか有さない男性に発症しやすいです。
選択肢 2 ですが
ウイルスは 20 nm ~ 200 nm ぐらいの大きさが多いです。つまり 0.02 ~ 0.2 μm なのでメンブレンろ過では除去できないと考えられます。ちなみに、HIV は約 100 nm = 0.1 μm です。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
HIV が感染するのは「CD4」陽性細胞です。CD8 ではありません。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は妥当です。
レトロウイルスは、RNA ウイルスの中で、逆転写酵素を持つウイルスです。細胞に感染後、逆転写酵素でウイルスの DNA コピーを作り、感染細胞の染色体 DNA に挿入します。これがプロウイルスです。
選択肢 5 ですが
核の部分が花びらのような形をしている「フラワーセル(Flower cell:花細胞)」が見られるのは「成人 T 細胞白血病リンパ腫」です。HIV 感染ではありません。選択肢 5 は誤りです。
以上より、問 120 の正解は 1,4 です。
問121
選択肢 1 は妥当です。
問題文より HIV 感染者 と AIDS 患者 年間報告数の推移とあります。感染者よりも AIDS 患者の方が少ないため、A が HIV 感染者、B がAIDS 患者とわかります。
選択肢 2 ですが
2021 年に注目すると、A:HIV 感染者数は 800 人弱、AIDS 患者数は 400 人弱と読み取れます。新規報告者数は 800 + 400 = 1200 弱です。1200 の 80% は 960 なので、約 80% は高すぎる表現です。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
新規 HIV 感染者の大半は男性です。最も多い感染原因は、同性間の性的接触です。「男性よりも女性の方が多い」わけではありません。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
感染経路別内訳で 2 番目に多いものは、異性間性的接触です。ちなみに、母子感染は経路 ウ です。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は妥当です。
最も多い感染原因は、同性間の性的接触です。
以上より、 問 121 の正解は 1,5 です。
問122
血液製剤は生物由来製品です。生物由来製品に関する救済制度は、生物由来製品感染等被害救済制度です。
【生物由来製品 感染者等被害救済制度の基礎知識】
健康被害を受けた本人、又は遺族等が PMDA に送付して医療費等の給付請求を行います。製造販売者による拠出金 及び 国 (厚生労働省) からの補助金が給付金の原資です。製品の使用目的・方法が適正でなかったり、製造販売業者などの損害賠償責任が明らかであったり、法定予防接種による被害は救済対象外です。
選択肢 1 は妥当です。
救済制度の目的についての記述です。
選択肢 2 ですが
製造販売業者の全額負担ではありません。国も負担します。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 は妥当です。
軽度な被害については救済されないということです。また、給付の支払いごとに異なる 請求期限 が経過した場合についても給付されません。
選択肢 4 ですが
医療費だけでなく、葬祭料や遺族年金に関する給付項目も含まれます。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 ですが
製造販売業者の過失が裁判で証明されたということは、損害賠償責任が明らかです。この場合は、本制度における救済対象から外れます。製造販売業者による救済へ移行します。選択肢 5 は誤りです。
以上より、問 122 の正解は 1,3 です。
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