薬剤師国家試験 第107回 問302-303 過去問解説

 問 題     

59歳男性。B型肝炎ウイルス(HBs抗原)陽性であったが症状もなく長年放置していた。倦怠感や意識障害が強くなり家族に連れられ近医を受診したところ、非代償性肝硬変と診断され、緊急入院となった。下肢にむくみを認めているが、食事の摂取は可能である。

入院時の検査値と入院後の処方は以下のとおりである。

(検査値)

AST 26IU/L、ALT 27IU/L、血清クレアチニン値 1.2mg/dL、総タンパク 6.0g/dL、血清アルブミン 2.4g/dL、LDL-C 38mg/dL、プロトロンビン時間(PT) 19.8秒、総ビリルビン 1.0mg/dL、直接ビリルビン 0.6mg/dL

問302

入院時、この患者に起こっていることとして、適切なのはどれか。2つ選べ。

  1. 血清アルブミン濃度の低下
  2. 血清コレステロール濃度の上昇
  3. フィッシャー比の上昇
  4. プロトロンビン時間の延長
  5. 直接ビリルビン濃度の低下

問303

この患者に対するアセスメントの内容として、適切なのはどれか。2つ選べ。

  1. 患者はすでに肝硬変に移行しているため、B型肝炎に対する治療薬は不要である。
  2. 利尿薬による過度の脱水は、高アンモニア血症を悪化させる可能性がある。
  3. 肝臓は正常に機能している。
  4. 酸化マグネシウム錠とラクツロースゼリー分包の併用により下痢の可能性がある。
  5. 分岐鎖アミノ酸は、配合経口ゼリー剤が処方されているので、食事による摂取が不要である。

 

 

 

 

 

正解.
問302:1, 4
問303:2, 4

 解 説     

問302

選択肢 1 は妥当です。
肝機能低下→アルブミン合成減少→アルブミン濃度低下 という流れです。アルブミンは血中の水分を保持する役割を担うタンパク質です。アルブミンが減少すると、組織に水分が移行します。肝硬変が進行する際、むくみや腹水として表れます。


選択肢 2 ですが
肝機能低下なので、コレステロール合成能が低下しています。そのため、血清コレステロール濃度は低下していると考えられます。選択肢 2 は誤りです。


選択肢 3 ですが
フィッシャー比とは、分岐鎖アミノ酸(BCAA)と芳香族アミノ酸(AA)のモル比です。BCAA/AA です。分岐鎖アミノ酸=ロイシン、イソロイシン、バリン です。芳香族アミノ酸=チロシン、フェニルアラニン、トリプトファンです。

肝機能が低下すると、代償的に筋肉におけるエネルギー産生や、アンモニア除去が増加します。この際、筋肉は分岐鎖アミノ酸を消費するため、血中分岐鎖アミノ酸が低下します。従って、フィッシャー比が低下します。「上昇」ではありません。選択肢 3 は誤りです。


選択肢 4 は妥当です。
プロトロンビンは、血液凝固因子です。プロトロンビンは、トロンボプラスチンを加えると固まります。血漿にトロンボプラスチンを加え、固まるまでの時間を測定したものが、PT です。肝機能が低下すると、プロトロンビンの減少が、アルブミン減少よりも早期におきます。従って、肝機能低下をより鋭敏に反映する検査値といえます。


選択肢 5 ですが
肝硬変においては、直接ビリルビン濃度が高くなります。肝細胞の破壊が進行 → 肝細胞内の直接型ビリルビンが血中に流出 という流れです。(類題 関節型ビリルビン増加を題材として 106-56)。

 

以上より、正解は 1,4 です。

問303

選択肢 1 ですが
肝硬変の治療は、原因疾患への治療と、合併症治療が中心となります。B 型肝炎に対する治療薬は、原因疾患への治療として必要であり、継続します。「不要」ではありません。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 は妥当です。

選択肢 3 ですが
倦怠感や意識障害、総タンパク質の低下、プロトロンビン時間延長などが見られており、肝臓の機能が低下していると考えられます。「正常に機能している」とはいえません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 は妥当です。

選択肢 5 ですが
食事からも補充した上で、不足しがちであるための補充意図と考えられます。「食事による摂取が不要」ではありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、問303 の正解は 2,4 です。

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