問 題
キャピラリー電気泳動は、微量の試料の分析に極めて有用であり、臨床検査における血清タンパク質の分析にも用いられている。溶融シリカ毛細管を用いたキャピラリー電気泳動に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- pH7の緩衝液を用いると、電気浸透流は陰極から陽極の方向に向かう。
- キャピラリーゾーン電気泳動では pH7 の緩衝液を用いると、陽イオン性物質と中性物質は同時に泳動される。
- キャピラリーゲル電気泳動でタンパク質を分離すると、分子サイズの大きい順に検出される。
- キャピラリー等電点電気泳動では、緩衝液に両性電解質(ポリアミノカルボン酸など)を溶解して分離を行う。
- ミセル動電クロマトグラフィーでは、中性物質の相互分離が可能である。
解 説
キャピラリー電気泳動法は
細い管の中で電気泳動を行うため、物質の拡散を抑えることができ、高い分離能を実現しています。又、1回の測定に用いる試料が微量でよいという長所があります。
キャピラリーは
フューズドシリカ(溶融石英)製キャピラリーが用いられます。キャピラリー内部の緩衝液の pH が 3 以上になると、Si-OH 基が解離し、表面が負に帯電します。これにより、溶液中の正電荷が表面に集まります。
この状態で両極に電圧をかけると、キャピラリー壁面に集まった陽イオンが陰極に引き寄せられ、それに伴ってキャピラリー内の電解質溶液全体が陽極から陰極に向かう、強い流れが生じます。この現象を電気浸透といいます。又、その流れを電気浸透流と呼びます。電気浸透流は、栓流と呼ばれる、均一で平面的な流れを実現します。そのため、分離がとてもきれいに行われるという特徴があります。
以上をふまえ、選択肢を検討します。(参考 分析化学まとめ 電気泳動法)
選択肢 1 ですが
pH 3 以上 → Si – OH 基解離 → キャピラリ表面 負電荷帯電 → 溶液中正電荷 表面に集積 → 電圧をかけることで、溶液が『陰極方向』に移動する という流れです。「陰極から陽極の方向」ではありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
電気浸透流に加え、電圧をかけることによる電気泳動の影響も受けるため、陽イオン物質がより速く陰極に向けて泳動されます。「同時に泳動される」わけではありません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
キャピラリー「ゲル電気泳動」なので、分子が大きいほどゲルの網目のひっかかって泳動速度が遅くなります。そのため、分子サイズの「小さい」順に検出されます。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4,5 は妥当です。
キャピラリー電気泳動では、複数の中性物質の分離は、電気浸透流の速度で等速に流れるため無理である。ミセルを使うことで、複数の中性物質の相互分離が可能になる、という点はしっかり意識しておさえておきましょう!
以上より、正解は 4,5 です。
コメント
お世話になっています。
選択肢の3番目ですが、キャピラリー”ゲル”電気泳動ですので、大きさを問われるのは適切かと思います。分子が大きいほど移動は遅いので小さい順に検出されるのが正解、という問題ではないでしょうか。
内容を修正いたしました。
ご指摘ありがとうございます!