薬剤師国家試験 第105回 問116 過去問解説

 問 題     

タンパク質Xは、細胞質内ではサブユニットA(分子量60,000)とサブユニットB(分子量30,000)がそれぞれ1つずつ非共有結合で会合したヘテロ二量体を形成している。

タンパク質Xは、増殖因子Fの刺激によりサブユニットAのみチロシン残基がリン酸化され、サブユニットBと解離する。

培養細胞を用いて以下の実験を行った。予想される結果として正しいのはどれか。1つ選べ。

  •  ① Fでこの細胞を刺激した。同時に未刺激の細胞も用意した。
  •  ② それぞれの細胞を破砕して細胞抽出液を得た。
  •  ③ 各細胞抽出液に、サブユニットAに対する抗体(抗A)を添加して免疫沈降(注1)を行った。
  •  ④ 沈降物を三等分し、それぞれをSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離した。
  •  ⑤ 分離したタンパク質をニトロセルロース膜に電気的に転写し、抗リン酸化チロシン抗体(抗Pi-Tyr)(注2)、抗A、サブユニットBに対する抗体(抗B)をそれぞれ用いたウエスタンブロット法を行った。

ただし、Fによる刺激で、A、B両サブユニットの発現量に変化はなく、分解も起こらないこと、また、チロシン残基がリン酸化されても、電気泳動移動度、抗Aによる免疫沈降及びウエスタンブロット法における認識には変化がないことを確認している。

注1:抗体を添加後、生じた免疫複合体を不溶性担体に吸着させて遠心分離によって回収する方法。

注2:タンパク質中のリン酸化されたチロシン残基を特異的に認識する抗体。

 

 

 

 

 

正解.1

 解 説     

2つの細胞を用意し、F 刺激あり、F 刺激なし とする。細胞内には、「A-B」という構造を持つタンパク質 X がそれぞれある。F で刺激すると、サブユニット A のチロシン残基がリン酸化して、A,B が離れる。 という内容です。抗体を添加することで、抗体との複合体を沈殿として回収できます。

すると、それぞれの細胞から、以下のような流れで反応が進み、免疫沈降により回収されます。

従って、抗 Pi ー Tyr に反応してバンドが見えるのは、F を加えた方です。抗 A に反応してバンドが見えるのは、両方です。抗 B に反応してバンドが見えるのは、F を加えなかった方です。これにより、正解は 1,2 です。

ここで、抗 A に関して、バンドがほぼ同じ位置に出ていることに違和感があると思います。この理由ですが、免疫沈降で回収してから、SDS – PAGE しているため「非共有結合」で会合していた二量体がバラバラになったからと考えられます。

すると、抗 B に反応するバンドは サブユニット B のみに対応するものです。サブユニット B の分子量は A よりも小さいから、抗 B に反応しているバンドが「泳動方向により大きく流れている」選択肢 1 が妥当と考えられます。

以上より、正解は 1 です。

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