問 題
図は、ある化合物Aの1H-NMRスペクトル(400MHz、CDCl3、基準物質はテトラメチルシラン)を示したものである。また、表は各シグナルの積分比を一覧にしたものである。
化合物Aの加水分解反応によって得られた化合物Bについて、同様の条件下で1H-NMRスペクトルの測定を行ったところ、アとウに相当するシグナルが消失し、11ppm付近に線幅の広い新たなシグナルが観測された。化合物Aの構造式はどれか。1つ選べ。
なお、×印のシグナルは水又はCDCl3中に含まれるCHCl3のプロトンに由来するシグナルである。
解 説
選択肢の化合物はどれもエステル(RCOOR’)の構造となっているので、加水分解によってRCOOHとR’OHに分かれます。化合物Aの大部分はRのほうなので、加水分解によって消失したシグナルというのはR’部分であると考えることができます。
ここで、消失したシグナルのうち、3H分のアは1~2ppmのところにあるので、これはアルキル基の-CH3です。一方、2H分のウは3~4ppmのところにあるので隣にO原子があり、さらに四重線なので反対側の隣には-CH3があると判断できます。
以上から、このエステルの構造は、「RCOOCH2CH3」であることがわかります。よって、この時点で選択肢 1 と 4 は不適なので、正解は選択肢 2、3、5 に絞られます。
今度は7ppmあたりに集中しているエ~キのシグナルに注目します。ここは芳香環に付いたHなので、芳香環に直結したHは合計で4つあることになります。選択肢 2、3、5 の中でこの条件を満たすのは選択肢 3 だけなので、これが正解ということになります。
念のため、上記で扱った「ア・ウ・エ~キ」以外のシグナルについても確認しておきます。
イは3H分が3~4ppmのところにあるので隣にO原子があると考えられます。よって、選択肢 3 の左端にあるH3C-O-のところに相当します。
クは1H分が幅の広いシグナルとして現れています。これはヘテロ原子(OやN、Sなど)に直接結合しているHの特徴なので、選択肢 3 のNHの部分に相当します。
また、加水分解によって新たに生まれた11ppm付近のシグナルは、RCOOHのHです。カルボン酸のHは概して、10~12ppmくらいに幅の広いシグナルとして現れます。
以上から、正解は 3 です。
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