問 題
新生児マススクリーニングは、先天性代謝異常を出生直後に早期発見し、栄養療法による早期治療を目指す事業である。近年、新たな新生児マススクリーニングとしてタンデムマス法を用いた脂肪酸代謝異常症の検査が始まった。
検査できる主な脂肪酸代謝異常症には、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1(CPT-1)欠損症、極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症、中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症がある。
図1はヒトにおける長鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸の代謝の概略である。ミトコンドリアにおいて、VLCADは長鎖脂肪酸、MCADは中鎖脂肪酸のβ酸化に関与する。なお、3種の代謝異常症に関わる酵素をで示している。
問137
図1に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 長鎖脂肪酸の分解の律速段階は、CPT-1によるカルニチンのアシル化である。
- CPT-1は、脂肪酸生合成の中間体のマロニルCoAにより活性化される。
- 脂肪酸のβ酸化では、NADHからNAD+が生成される。
- β酸化により生成したアセチルCoAは、クエン酸回路で利用される。
- VLCAD欠損症の患者では、中鎖脂肪酸からアセチルCoAを産生できない。
問138
β酸化による脂肪酸の代謝反応のうち、脂肪酸と補酵素A(CoASH)が縮合したチオエステルaからアセチルCoA(化合物f)が生じる経路を示す。下の記述のうち正しいのはどれか。2つ選べ。ただし、ア及びイは補酵素であり、チオエステルはエステルと同様の反応を起こすものとする。
- 化合物aからbへの変換には、補酵素アが必要である。
- 化合物bからcへの反応は、酸化反応である。
- 化合物cからdへの変換には、補酵素イが必要である。
- 化合物dからe及びfへの反応では、CoASHが求核剤としてはたらいている。
- 化合物dのチオエステルのα-水素の酸性度は、化合物aのものよりも低い。
問139
新生児マススクリーニングで使われているタンデムマス法は、2段の質量分離部を用いる方法である。以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- タンデムマス法では、質量分離部が並列に配置されている。
- 試料は冷蒸気法によってイオン化される。
- 1段目の質量分離部で選択される特定のイオンのことを、プリカーサーイオンという。
- プリカーサーイオンは、電子を衝突させることによりさらに解離される。
- タンデムマス法は、アミノ酸や有機酸などの代謝物の一斉分析にも有用である。
問140
図2は、タンデムマス法により測定した新生児A~Eの血液試料中のアシルカルニチン分子種の定量結果である。それぞれの疾患の診断基準を以下に示す。
C8、C16及びC18の数字は、アシルカルニチンに含まれる脂肪酸の炭素数を、C14:1は、炭素数と二重結合が1つあることを表す。またC0は、遊離カルニチンを表す。ここでは炭素数12以上を長鎖脂肪酸、炭素数8と10を中鎖脂肪酸とする。
図2の測定結果から考えられる新生児A~Eの疾患名と、図1の代謝経路に基づいて実施すべき栄養療法の組合せのうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 新生児 疾患名 実施すべき栄養療法
- A CPT-1欠損症 頻回哺乳による低血糖の防止
- B VLCAD欠損症 中鎖脂肪酸トリグリセリドを構成成分とするミルクの使用
- C MCAD欠損症 中鎖脂肪酸トリグリセリドを構成成分とするミルクの使用
- D CPT-1欠損症 中鎖脂肪酸トリグリセリドを構成成分とするミルクの使用
- E MCAD欠損症 頻回哺乳による低血糖の防止
正解.
問137:1, 4
問138:1, 4
問139:3, 5
問140:2, 4
解 説
問137
選択肢 1 は妥当な記述です。
選択肢 2 ですが
マロニルCoA は、脂肪酸の「合成」方向の中間体です。一方 CPT-1 は 脂肪酸を「分解」しようという流れの酵素です。合成段階において、マロニルCoAの量が上昇し、それに伴い CPT-1 が「阻害」されると、生成がはかどり妥当と考えられます。よって、選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
β「酸化」なので、脂肪酸が酸化されます。すると補酵素は還元されます。還元されるなら、水素を「受け取り」ます。つまり NAD+ → NADH の方向と考えられます。よって、選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は妥当な記述です。
選択肢 5 ですが
図1より、中鎖脂肪酸→アシル CoA → MCAD の経路により、アセチル CoA が産生されると考えられます。よって、選択肢 5 は誤りです。
以上より、問137 の正解は 1,4 です。
問138
A は FAD です。B はチアミンピロリン酸です。
選択肢 1 は妥当な記述です。
選択肢 2 ですが
C =C が C(OH)ーCH になっています。H2O が付加なので「水和」と考えられます。「酸化」ではありません。よって、選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
必要なのは NAD+ です。よって、選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は妥当な記述です。
選択肢 5 ですが
d の αー水素は、2 つのカルボニル基から見た α 位の H なので、より抜けやすいです。つまり酸性度がより高いといえます。よって、選択肢 5 は誤りです。
以上より、問138 の正解は 1,4 です。
問139
選択肢 1 ですが
タンデムマス法では、質量分析器を 2 台タンデム、すなわち「直列」に配置されています。「並列」ではありません。よって、選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
「冷蒸気法」によりイオン化するのは、水銀です。よって、選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 は妥当な記述です。
選択肢 4 ですが
衝突させるのは「不活性ガス」です。電子ではありません。よって、選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は妥当な記述です。
以上より、問139 の正解は 3,5 です。
問140
新生児 A,E は、診断基準に該当しません。よって、選択肢 1,5 は誤りです。
選択肢 3 ですが
MCAD 欠損に中佐脂肪酸が構成成分のミルクを使用しても、代謝が回りません。よって、選択肢 3 は誤りです。栄養不足にならないよう、頻回のミルク哺乳を行います。
以上より、問140 の正解は 2,4 です。
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