問 題
50歳男性。体重70kg。血清アルブミン値4.1g/dL、血清クレアチニン値2.0mg/dL。重症のMRSA院内感染によりバンコマイシン塩酸塩を1日1回間欠点滴投与することになった。初回は負荷投与する予定である。
この患者におけるバンコマイシンの分布容積は0.7L/kg、半減期は24時間と見積もられている。血液培養の結果、バンコマイシンによる最小発育阻止濃度(MIC)は1.0μg/mLであった。
問274
バンコマイシン塩酸塩による治療及びTDMに関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- この患者では、腎機能の低下により、半減期が延長している。
- 肝毒性の発現を回避するため、バンコマイシンのトラフ値は20μg/mL以下にすることが推奨されている。
- 治療効果の指標として、最高血中濃度/MICを用いる。
- レッドネック症候群を予防するために、1時間以上かけて点滴する。
- この患者では、アルブミンが大量に尿中へ漏出しているため、タンパク結合率が低下している。
問275
2回目投与直前のバンコマイシンの血中濃度が10μg/mLとなることを想定し、バンコマイシン塩酸塩の初回負荷投与を行いたい。また、定常状態におけるトラフ値を15μg/mLとしたい。バンコマイシンの負荷投与量と維持投与量の組合せとして適切なのはどれか。1つ選べ。
ただし、投与量の計算において、投与に要する時間は投与間隔に対して無視できるほど短いものとし、投与中における体内からのバンコマイシンの消失は無視できるものとする。
- 負荷投与量(g) 維持投与量(g)
- 0.75 0.25
- 0.75 0.50
- 1.00 0.50
- 1.00 0.75
- 1.25 0.75
- 1.25 1.00
正解.
問274:1, 4
問275:4
解 説
問274
アルブミンは基準値内、クレアチニンはすこし高めです。
バンコマイシンは、グリコペプチド系抗生物質の一つです。殺菌的に働く、細胞壁合成阻害剤です。D-アラニル-D-アラニンに結合して細胞壁合成酵素を阻害し、菌の増殖を阻止します。代表的な副作用として、腎毒性があります。AUC/MIC が効果と相関するとされています。
バンコマイシンの注射では、60 分以上かけてゆっくり点滴静注します。これはレッドネック症候群、すなわち、バンコマイシンを急速に点滴した際に見られる顔や頸部の発赤、血圧低下などを避けるためです。
選択肢 2 ですが
トラフ値 20μg/mL 以下は、「腎毒性」の発現回避のためです。「肝毒性」の発現回避ではありません。
選択肢 3 ですが
AUC/MICが効果と相関するとされています。
選択肢 5 ですが
アルブミン値は基準値内です。大量に尿中へ漏出しているのであれば、もっと値が低くなります。
以上より、正解は 1,4 です。
問275
2回目投与直前が 10μg/mL → 1日1回点滴投与かつ、半減期が 24h なので、初回負荷投与したら血中濃度が 「20μg/mL」 ということです。
Vd = D/C0 (これは公式)。Vd = 49L、C0 = 20mg/L とすれば、D = 980mg ≒ 1.00g です。また、Css = (D/τ)/ CL。CL = ke × Vd。ke ≒ 0.7/T1/2 。(これらは公式)
値を公式に代入します。CL = (0.7/24) × 49 、Css = D/24 / 0.7/24 × 49 です。ここで、定常状態において、トラフが 15 μg/mL なら、ピークが 30 μg/mL です。よって平均を取って、Css ≒ 22.5 と考えて解けば、 D ≒ 750mg = 0.75g
以上より、正解は 4です 。
類題 97-270
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