問 題
65歳女性。高血圧症治療のために通院している病院で、慢性心不全(NYHA分類Ⅰ度)と診断された。本日の受診時にむくみなどの自覚症状はないが、心臓超音波検査では左室機能が低下していると指摘された。
- 血圧:132/80mmHg、脈拍:78回/分
- 整副作用歴:リシノプリルによる空咳
- 薬歴:半年前より テルミサルタン錠40mg 1日1回
医師は薬剤を追加するに際し、薬剤師に相談した。
問292
この患者に追加する心不全治療薬として、最も推奨される薬物はどれか。1つ選べ。
- ジゴキシン
- フロセミド
- カプトプリル
- カルベジロール
- イソプロテレノール
問293
前問で推奨される追加薬物に関して適切なのはどれか。1つ選べ。
- 導入直後から心筋の収縮力が改善する。
- 治療薬物モニタリング(TDM)の対象薬物である。
- 導入時に高用量の負荷投与を行い、続けて維持量を投与する。
- 導入時に心不全が悪化することがある。
- レニンの分泌を促進する。
正解.
問292:4
問293:4
解 説
問292
ガイドラインによれば、慢性心不全患者へは ACE 阻害薬がまず第一に推奨されます。ACE 阻害薬への忍容性に乏しい場合は ARB を使用します。さらに、予後の改善を目的としてβ 遮断薬を用いることが推奨されます。他に、症状に合わせて抗アルドステロン薬、利尿薬、ジギタリス経口強心薬、静注強心薬などを用います。
本症例では、ARB 使用中であり、追加としてはβ 遮断薬の導入が適切と考えられます。選択肢の薬剤は、それぞれ、1 : 強心配糖体、2 : ループ利尿薬、3 : ACE 阻害薬、4 : α,β 遮断薬、5 : β刺激薬です。 よって、推奨されるのはカルベジロールです。
以上より、正解は 4 です。
問293
カルベジロール(アーチスト)は、β 遮断薬です。心臓の機能を抑制して無理をさせなくする薬です。
これは心臓をマラソンランナーに例えると、頑張りすぎたのでペースが落ちてきた。→ もう体がぼろぼろだから、休ませるために β遮断薬を投与。というイメージです。うまくペースをおとし適切なペースに移行できると「楽に走り続けることができる」状態になります。そうすると、体(心臓のこと)も保護できるし、結果的にそこそこ走ることができるという状態になっていく という流れです。
とはいえ、心臓の機能が落ちつつあるのが心不全なので、更に機能を抑制すると、息切れや呼吸困難などの、種々の症状がむしろ悪化することがあります。ペースががくっとおちると、余計に疲れるしかも、全然進まない。みたいな感じです。そのため、特に導入時には症状の変化に注意が必要な薬です。
また、用法も特殊で「少量からの漸増投与」 という用法になっています。
以上をふまえて、各選択肢を検討します。
選択肢 1 ですが
心機能を抑制する方向に働くので、心筋の収縮力が改善するわけでは、ありません。よって、選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
TDM 対象薬では、ありません。(問 292 の選択肢の中では、ジゴキシンが TDM 対象です。 )よって、選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
これは、禁忌肢になっていいかと思います。非常に危険です。全く不適切です。
選択肢 4 は、正しい選択肢です。
選択肢 5 ですが
β 遮断により、レニン分泌は抑制されます。よって、選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 4 です。
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