問 題
20歳女性。体重40kg。劇症肝炎のため、兄を臓器提供者とした生体部分肝移植を受けた。タクロリムス水和物カプセル1mg1回2カプセル(1日4カプセル) 1日2回 朝夕食後投与にて維持療法を行っていたが、下記の処方が追加になった。
問216
本患者の薬物療法に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 悪性腫瘍の発生に注意する。
- 高血糖症状の副作用発現に注意する。
- 免疫低下による感染の防止のため、乾燥弱毒生風しんワクチンを接種する。
- ミコフェノール酸モフェチルは、タクロリムス水和物の副作用を軽減する目的で使用する。
問217
移植臓器に対する拒絶反応及びその制御に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 臓器提供者(ドナー)と受容者(レシピエント)が親子であれば、一般に拒絶反応は起こらない。
- ドナーとレシピエントのヒト白血球抗原(HLA)の不適合は、拒絶反応の要因となる。
- 移植された臓器が、レシピエントの免疫反応により傷害される反応を移植片対宿主反応(graft-versus-host reaction,GVHR)という。
- 移植後、数日から数週間で起こる急性拒絶反応に、T細胞は関与しない。
- タクロリムスは、細胞内の特定のタンパク質と複合体を形成し、転写因子の活性化に関わるホスファターゼを阻害する。
正解.
問216:1, 2
問217:2, 5
解 説
問216
選択肢 1,2 は、正しい記述です。
免疫抑制療法により、悪性腫瘍の発症率が健康人と比べると高くなることが知られており注意が必要となります。(しかし、移植後の定期的通院の元、早期発見、早期治療が期待されるため過度の心配は不要であるといえます。)
また、免疫抑制剤であるシクロスポリンやタクロリムスは、副作用として高血糖が知られているため注意が必要です。
選択肢 3 ですが
タクロリムス 及びミコフェノール酸モフェチル について、生ワクチンは、併用禁忌です。よって、選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
ミコフェノール酸モフェチルは、核酸合成阻害による免疫抑制剤です。タクロリムスとは異なった機序による免疫抑制を期待して用いられます。副作用軽減が目的では、ありません。よって、選択肢 4 は誤りです。
以上より、正解は 1,2 です。
問217
選択肢 1 ですが
親子であっても拒絶反応が起こらないわけではありません。よって、選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 は、正しい記述です。
ちなみに HLA が適合しても、臓器移植の拒絶反応の原因たる抗原になり得るものは HLA の他にも数多く存在します。つまり、HLAの型を合わせることは、拒絶反応を減らしこそすれ、すべての拒絶反応が回避できるわけではない点には注意が必要です。
選択肢 3 ですが
この記述は、拒絶反応に関するものです。拒絶反応と GVHR は攻撃する側とされる側が、正反対です。すなわち GVHR は、移植片が免疫応答によってレシピエントの臓器を攻撃することによる反応です。
よって、選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
急性拒絶反応は、T 細胞介在性の反応です。T 細胞が関与しないわけでは、ありません。よって、選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は、正しい記述です。
以上より、正解は 2,5 です。
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