公務員試験 H30年 法務省専門職員 No.23解説

 問 題     

長期記憶に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1.長期記憶には,エピソード記憶,意味記憶,手続き記憶が含まれる。エピソード記憶と意味記憶は,基本的には言葉で表現することができる宣言的記憶であり,この点で手続き記憶と異なる。長期記憶に対する加齢の影響は大きく,一旦獲得されたものであっても,いずれの長期記憶も高齢期には想起が困難になる。

2.手続き記憶は,一定の認知活動や行動に組み込まれる情報処理の仕方の記憶である。手続き記憶には,自転車の乗り方や算数の問題解法,議論の仕方など,単純なものから複雑なものまで,また,運動的・動作的なものから認知的・慣習的なものまで,様々なスキルや認知様式が含まれる。無意識的に機能することはなく,記憶の検索時には想起意識を伴う。

3.自伝的記憶は,自分が経験した出来事の記憶であり,個人のアイデンティティと密接に関わっている。青年期から成人前期にかけての出来事の自伝的記憶は想起されやすく,この現象をレミニッセンスバンプと呼ぶ。また,抑うつ状態にある人は,類似の経験をまとめたり,ある時期を一括りにしたりするような概括的な自伝的記憶しか想起できないことが多い。

4.健忘症状は,前向健忘と逆向健忘に分けられる。前向健忘は,記銘や保持のプロセスの障害により新しく経験したことを覚えられなくなることであり,逆向健忘は,想起のプロセスの障害により既に蓄えられている経験を思い出せなくなることである。逆向健忘では,発症時直前の新しい出来事の記憶は比較的保たれる一方,古い出来事の記憶ほど障害されやすい。

5.潜在記憶は,自分の過去の経験について「思い出す」という意識を伴わずに利用可能な記憶であり,主に単語完成課題などの直接プライミング課題によって測定される。単語完成課題の成績は,意味的・概念的な深い処理を行うことや,自分で記銘材料を生成することによって向上することが示されており,前者は処理水準効果,後者は生成効果と呼ばれる。

 

 

 

 

 

正解 (3)

 解 説     

選択肢 1 ですが
前半部分は妥当です。後半部分ですが、手続き記憶の例は。車を発進させるための一連の記憶です。このような記憶は、高齢期にも想起困難にはなりません。選択肢 1 は誤りです。(参考 H27no23)。

選択肢 2 ですが
手続き記憶は、非宣言的記憶の一種です。すなわち、いちいち言語を介さずできる、意識にのぼらせることができない記憶です。「記憶の検索時には想起意識を伴う」わけではありません。選択肢 2 は誤りです。(参考 H27no23)。

選択肢 3 は妥当です。
自伝的記憶についての記述です。

選択肢 4 ですが
第一文、第二文は妥当です。逆向健忘では、一般に、発症時点に近い出来事ほど思い出しにくく、発症時点から遠い過去の出来事ほど思いだしやすいです。時間勾配 といいます。ただし、必ず時間勾配が見られるわけではありません。「発症時直前の新しい出来事の記憶は比較的保たれる・・・」というわけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
生成効果とは、自己関連記憶とも呼ばれます。自分と無関係な物事より、自分と関係がある物事の方が思い出しやすくなるという効果のことです。「自分で記銘材料を生成することにより向上する」効果ではありません。その他の記述は妥当です。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 3 です。

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