問 題
相殺に関するア〜エの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし,争いのあるものは判例の見解による。
ア.連帯債務者A及びBのうち,Aが債権者Cに対して反対債権を有する場合において,Aが相殺を援用したときは,債権はAのみの利益のために消滅する。
イ.既に弁済期にある自働債権と弁済期の定めのある受働債権とが相殺適状にあるというためには,受働債権につき,期限の利益を放棄することができるというだけではなく,期限の利益の放棄又は喪失等により,その弁済期が現実に到来していることを要する。
ウ.使用者は,労働者に対して有する不法行為に基づく損害賠償請求権を自働債権とし,賃金債権を受働債権とする相殺をすることができる。
エ.AがBのCに対する債権を差し押さえた場合に,Cが差押前に取得したBに対する債権の弁済期が差押えの時点で未到来であり,かつ,差し押さえられた債権の弁済期よりも後に到来するときは,Cは,両債権の相殺をもってAに対抗することができない。
1.ア
2.イ
3.ウ
4.ア,エ
5.イ,エ
解 説
記述 ア ですが
民法第 439 条 1 項より、連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅」します。ちなみに、前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間、その連帯債務者の負担部分の限度において、他の連帯債務者は、債権者に対して債務の履行を拒むことができます。記述 ア は誤りです。
記述 イ は妥当です。
既に弁済期にある自働債権と、弁済期の定めのある受働債権の相殺適状に関する 最判 H25.2.28 の通りです。
記述 ウ ですが
労働基準法第 17 条により、前借金と賃金債権は相殺できません。そして、判例によれば、労働基準法24条の『全額払いの原則』の趣旨に基づけば、『借入金』と『損害賠償金』で違いはないということから、損害賠償金も相殺できないとされています。記述 ウ は誤りです。
記述 エ ですが
改正民法第 511 条により、「差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができ」ます。記述 エ は誤りです。
以上より、正解は 2 です。
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