公務員試験 H30年 国家一般職(行政) No.26解説

 問 題     

債務不履行に関する ア〜オ の記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。

ア.不法行為に基づいて発生した損害賠償債務は,債権者が債務者に対して催告をしなくても,不法行為による損害の発生と同時に遅滞に陥る。

イ.量産されているスピーカーを街頭宣伝用に購入した後に,そのスピーカーに音質不良などの欠陥があることが判明した場合には,買主は,そのスピーカーを一旦受領している以上,特段の事情のない限り,売主に対して新たなスピーカーの給付を請求することはできない。

ウ.金銭を目的とする債務の履行遅滞による損害賠償については,法律に別段の定めがなくとも,債権者は,約定又は法定の利率以上の損害が生じたことを立証すれば,その賠償を請求することができる。

エ.AB間の鉱石の売買契約において,契約の存続期間を通じてAが採掘した鉱石の全量をBが買い取るものと定められている場合,信義則上,Bには,Aがその期間内に採掘した鉱石を引き取り,代金を支払うべき義務があるから,Bがその引取りを拒絶することは債務不履行に当たる。

オ.売買契約の締結に先立ち,売主が,信義則上の説明義務に違反して,その契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を買主に提供しなかった場合には,売主は,買主が当該契約を締結したことにより被った損害につき,契約上の債務不履行による賠償責任を負う。

1.ア,ウ
2.ア,エ
3.ア,オ
4.イ,ウ
5.エ,オ

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

記述 ア は妥当です。
民法第 412 条 3 項によれば、「債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負」います。不法行為に基づく損害賠償債務もまた期限の定めのない債務ですが、最判 S37.9.4 によれば「なんらの催告を要することなく,損害の発生と同時に遅滞に陥る」とされています。記述 ア は妥当です。

記述 イ ですが
改正民法 第 562 条により、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができ」ます。

記述 ウ ですが
債務不履行について金銭債務の特則に関する 改正民法 第 419 条によれば、「金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。」また、「債権者は、損害の証明をすることを要しない。」と規定されています。記述 ウ は誤りです。

記述 エ は妥当です。
買主の引取義務の有無に関する 最判 S46.12.16 の通りです。

記述 オ ですが
契約締結説明義務違反に基づく損害賠償 に関する最判 H23.4.22 によれば、信義則上の説明義務違反の結果、「不法行為」による損害賠償責任は負うが、債務不履行による賠償責任は負いません。この結果、消滅時効の期間は、損害及び加害者を知った時から 3 年となります。記述 オ は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

 

コメント