公務員試験 H29年 国家一般職(行政) No.67解説

 問 題     

再生産論に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.P.ウィリスは『ハマータウンの野郎ども』において,労働者階級出身の子供たちが反学校的な文化をもち,肉体労働者である父親たちの「男らしさ」を肯定的に評価することで,自ら進んで肉体労働を選択していく過程を描いた。

2.B.バーンスティンは,一般的に男性が女性に比べて学校での成功に有利であるとして,その理由を,日常生活で身に付ける言語コードの違いから説明した。男性は「精密コード」と「限定コード」を使い分け,女性は「限定コード」のみを用いるため,「精密コード」を用いる学校教育では男性が有利になるとした。

3.S.ボウルズとH.ギンタスは『アメリカ資本主義と学校教育』において,学校で形成される社会的関係と,職場で形成される社会的関係の構造的対応に着目し,この構造的対応によって,学校教育が労働者の再生産に寄与していることを正統的周辺参加論として示した。

4.I.イリイチは『ジェンダー』において,学校におけるジェンダー再生産を教育投資の観点から論じた。女性は高度に専門的な技術職に就ける見通しを持ちにくいため,人文科学系の学問に関する教育を受けるための進学が,女性にとって最適な教育投資となっていることを示した。

5.P.ブルデューは,学校教育における能力主義が,格差や不平等の是正に寄与していることを指摘した。知覚,評価,行動などへの態度性向を「役割」として概念化し,被支配的階級出身の子供も学校で価値を置かれている「役割」を身に付けることによって,学業で成功していることを明らかにした。

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

選択肢 1 は妥当です。
P.ウィリスの「ハマータウンの野郎ども」についての記述です。(H28no67)。

選択肢 2 ですが
バジル・バーンステインは、限定コード精密コードの二つの言語コード論を提唱し、中間階級と労働者階級では子供たちの学業達成がなぜ異なるのかについて分析しました。限定コードは、物事を主観的、地位的に述べるコードです。精密コードは、物事を客観的、抽象的、人格的に述べるコードコードです。労働者階級が習得する機会が少ないのは「精密コード」です。(H28no67)。男性、女性の違いではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
前半部分は妥当です。ボウルズとギンタスの「アメリカ資本主義と学校教育」についての記述です。対応理論と呼ばれます。後半部分ですが、正統的周辺参加とは、弟子が師匠から学ぶ徒弟制度のように、師匠の仕事を見て学ぶ「周辺」→「中心的役割」へと変化する過程を「学習」と捉える考え方です。レイヴとウェンガーによる「状況に埋め込まれた学習」により提唱されました。「アメリカ資本主義と学校教育」により示されたわけではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
I.イリイチは「脱学校の社会」の著者です。他にも「シャドウ・ワーク」、「ジェンダー」などの著者です。イリイチは「ジェンダー」で、産業経済社会における労働・分業や生産・消費のありように注目し、賃労働を担う男性とシャドウ・ワークを担う女性とに振り分けられていることを指摘しました。「学校におけるジェンダー再生産を教育投資の観点から論じた」わけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
文化と階層の関係解明に取り組んだ P.ブルデューは、上流階層の人々がその幼少期から有形・無形に獲得してきた文化が、学校での成績や職業での地位達成などに有利な文化資本として機能していることを示しました。(H26no60)。「能力主義が,格差や不平等の是正に寄与していることを指摘した」わけではありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

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