問 題
組織の構造と管理に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.企業組織を製品別又は地域別に編成し,開発,生産,営業などの諸機能を各部門に設ける形態を機能別組織と呼ぶ。この形態を採る会社では,機能ごとに業務の専門化が進むため,機能間の調整が容易になる一方で,部門ごとの成果が明確になるため,各部門長は短期的な成果を追求しがちになり,当該部門全体を統括する経営的視点を持った人材の育成が困難になる。
2.A.D.チャンドラーは,機能別組織の会社が多角化して事業部制組織へと移行し,さらに各事業部が独立性を高めることで,全ての会社が持株会社形態に収斂すると結論付けた。実際に米国では,1920 年代以降,複数の事業会社を子会社として支配する持株会社が一般化したが,日本では,第二次世界大戦後2006 年に会社法が施行されるまでの間,持株会社の設立自体が禁止されていた。
3.公式組織は「二人以上の,意識的に調整された諸活動又は諸力のシステム」と定義され,その成立条件は,「有効性」と「能率」の二つである。公式組織の長期的な存続にはいずれの条件も満たされる必要があるが,短期的な存続にはいずれか一方の条件が満たされていればよいとされており,この短期的にしか存続しない組織は「非公式組織」と呼ばれる。
4.フランスの専門経営者であったJ.H.ファヨールは,経営における管理的職能を五つの構成要素(予測,組織,命令,調整,統制)に区分して,その重要性を説いた。ファヨールの理論は,その後,米国で管理過程論として普及し,また,管理的職能の諸要素が順番に繰り返されるとするPDCA サイクルなどの手法の基礎となった。
5.組織エコロジー論では,個々の組織レベルで環境への適応が生じ,組織の集合である個体群レベルでは適応が生じることはないと考える。M.T.ハナンとJ.フリーマンは,個体群の組織形態をスペシャリストとジェネラリストに分類し,環境の変化が少なく安定しているときはジェネラリストの方が適しており,環境の変化が起こりやすいときは,その環境の変化のタイプにかかわらず,スペシャリストの方が適しているとした。
解 説
選択肢 1 ですが
製品別や地域別に編成された企業組織は「事業部制」です。「機能別組織」ではありません。また、機能別組織においては、「機能間の調整が困難になる」という傾向があります。「営業は売ることしか考えないけど、開発のことを何も考慮しない。開発は自己満足の製品しか作らない、売れる製品という視点がない」といった話です。選択肢 1 は誤りです。参考 H27no48
選択肢 2 ですが
日本における持株会社は、1997 年「独占禁止法」改正により解禁されました。「会社法」で禁止されていたわけではありません。選択肢 2 は誤りです。
ちなみに、チャンドラーは
1:量的拡大→管理部門発生 2:地理的拡散→地域ごとに立地する現業組織発生、3:垂直統合→職能性組織の生成、4:製品多角化→事業部制組織導入 という戦略プロセスの違いに応じた組織構造の変化を見出しました。そして「組織は戦略に従う」という有名な命題を導き出した人物です。
選択肢 3 ですが
バーナードの組織論についての記述です。「非公式組織」は、ホーソン実験において、その存在や機能が発見されました。公的な組織図には表れないが、経験の共有等の理由から自然発生的に生じ、メンバーの行動を調整しているもののことです。「短期的にしか存続しない組織」のことではありません。また、バーナードの組織成立条件は、共通目標、貢献意欲、伝達 の3つです。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は妥当です。
ファヨールの管理的職能についてです。参考 H26no49
選択肢 5 ですが
安定している時は専門性を活かして突き進んだ方がよいと判断できるのではないでしょうか。選択肢 5 は誤りです。ちなみに、組織エコロジー論と、ハナン、フリーマンという対応は妥当です。
以上より、正解は 4 です。
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