公務員試験 H29年 国家一般職(行政) No.28解説

 問 題     

売買に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。ただし,争いのあるものは判例の見解による。

1.売買契約締結に際し,買主から売主に対し手付が交付された場合において,その後買主が履行に着手することにより売主が契約の履行に対する期待を抱いた以上,売主がいまだ履行に着手していないときであっても,履行に着手した買主は売主に対して契約を解除することはできない。

2.売買契約締結に際し,買主から売主に対し手付が交付された場合であっても,契約書にその手付について「買主に契約不履行があるときは,売主は手付を没収し,売主に契約不履行があるときは,売主は買主に手付の倍額を損害賠償として提供する」と定めているときには,売主は,この手付を根拠にして,手付の倍額を返還して契約を解除することはできない。

3.他人の権利を売買の目的とする売買契約を締結した場合において,その他人に権利を譲渡する意思がないことが明らかなときは,その売買契約は原始的不能を理由に無効となる。

4.強制競売も売買と同一の性格を持つので,競売の目的物に隠れた瑕疵があったときは,買受人は,売主の地位に立つ債務者に対し,目的物の瑕疵に基づく担保責任を追及することができる。

5.売買契約において,引渡前に目的物から生じた果実は売主に帰属し,買主は目的物の引渡日より代金の利息の支払義務を負うから,売主は,目的物の引渡しを遅滞していても,代金が未払である限り,果実を収得することができる。

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

選択肢 1 ですが
まず、民法 557 条より、手付交付時は、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主は手付を放棄し、売主は倍額を償還して、契約解除できます。そして、最判 S 40.11.24 によれば、「当事者の一方」とは、相手方のみを指します。みずからが履行に着手しても、相手方が履行着手するまでは解除できます。従って、売主がいまだ履行着手していないから、買主は契約解除できます。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
契約書の内容は、手付の中でも「違約手付」としての内容です。このような契約書がある時に、受け取った手付を「解約手付」として考えてよいかという話です。判例によれば、違約手付の趣旨であることは、同時に解約手付であることを妨げないとされています。従って、売主は手付を根拠に、倍額返還して契約解除できます。選択肢 2 は誤りです。

※改正ポイント!
選択肢 3 ですが
旧民法 560 条の内容は、民法 561 条に移されました。他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負います。そして、判例によれば、他人の権利を譲渡する意思がない場合であっても、売買契約自体は有効に成立します。原始的不能を理由に無効にはなりません。選択肢 3 は誤りです。

※改正ポイント!
選択肢 4 ですが
旧民法 570 条但し書きより、強制競売について瑕疵担保責任は適用されませんでした。この内容は変わっておらず、選択肢 4 は誤りです。

改正ポイントについてですが
そもそも民法改正により「瑕疵」という文言は使われなくなり、「契約の内容に適合しないもの」という文言に改められました。そして、債務不履行責任と整理され、買主のとり得る手段として、解除、損害賠償に加え、追完請求、代金減額請求も認められました。※損害賠償請求には、売主の帰責性が必要。

選択肢 5 は妥当です。
民法 575 条 です。

以上より、正解は 5 です。

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