問 題
物上代位に関するア〜オの記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし,抵当権は抵当権設定登記を備えているものとする。
ア.抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の前に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者に対抗することはできない。
イ.動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない。
ウ.抵当権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない。
エ.敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合においても,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたときは,賃料債権は,敷金の充当によりその限度で消滅する。
オ.転付命令に係る金銭債権が抵当権の物上代位の目的となり得る場合においては,転付命令に係る金銭債権が転付債権者に移転するだけであり,転付債権者が第三債務者から弁済を受けない限り,抵当権者は転付命令に係る金銭債権について抵当権の効力を主張することができる。
1.ア,イ
2.ア,ウ
3.イ,エ
4.ウ,オ
5.エ,オ
解 説
物上代位性とは、目的物の売却等により、債務者が受けるべき金銭その他にも権利が及ぶという性質です。具体的に言えば、担保としていた不動産を債務者が売却したら、そのお金から、債権者がお金を得ることができるということです。但し、この金銭は債務者に支払われる前に差し押さえなければなりません。
記述 ア ですが
A が 抵当権者、B が不動産所有者、抵当権設定者とします。抵当不動産に賃借人 C がいます。抵当権設定登記により公示されることから、公示前に反対債権を取得した場合は相殺でき、公示後とみなせる登記後に反対債権取得時は相殺できない、と判示されています。今回 C は「登記の前」に反対債権を取得しているため、相殺できます。記述 ア は誤りです。
記述 イ は妥当です。
民法第 333 条です。
記述 ウ ですが
最判 H10.1.30 によれば、債権譲渡は、民法 372 条が準用する 304 条 1項ただし書きの「払渡し又は引渡し」に含まれません。そうであれば、第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、みずから目的債権を差し押さえて、物上代位権を行使できます。記述 ウ は誤りです。
記述 エ は妥当です。
敷金の賃料への当然充当が、物上代位権の行使によって妨げられないということです。
記述 オ ですが
債権者 A、債務者 B がいて、Bに預金口座があるとします。預金口座の差し押さえでは、B がもし他にも債務があり、既に差し押さえを受けていたりすると、A がお金を回収できないかもしれません。そこで「ダイレクトに A の口座に B の口座から金を移して」といった命令が転付命令です。
最判H10.1.30 との対比で注目されたのですが、最判 H14.3.12 によれば、「転付命令が第三者債務者に送達されるまでに、抵当権者が差し押さえなかったときは転付命令の効果を妨げることはできず、また、転付命令が確定したときは、抵当権者が抵当権の効力を主張することはできないと解すべき」とされました。債権者が任意に債権譲渡した場合とは異なる結論が導かれています。記述 オ は誤りです。
以上より、正解は 3 です。
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