問 題
意思表示に関するア〜オの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし,争いのあるものは判例の見解による。
ア.表意者が真意でないことを知りながらした意思表示は,原則として有効であるが,相手方がその真意を知っている場合や知ることができた場合は無効となる。
イ.相手方と通じてした虚偽の意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することはできないが,第三者が利害関係を持った時点では善意であっても,その後に虚偽であることを知った場合は,善意の第三者ではなくなるから,意思表示の無効を対抗することができる。
ウ.相手方と通じてした虚偽の意思表示の無効を対抗することができないとされている第三者は,善意であることに加えて,無過失であることが必要である。
エ.錯誤により意思表示をした者に重大な過失があり,その表意者自ら意思表示の無効を主張することができない場合は,表意者以外の者もその無効を主張することができない。
オ.詐欺による意思表示は,善意の第三者に対してもその取消しを対抗することができ,強迫による意思表示も,詐欺と比べて表意者を保護すべき要請が大きいため,当然に善意の第三者に対してその取消しを対抗することができる。
1.ア,イ
2.ア,エ
3.イ,ウ
4.イ,エ
5.ウ,オ
解 説
記述 ア は妥当です。
「表意者が真意でないことを知りながらした意思表示」である「心裡留保」は、原則有効です。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効です。(改正後民法 第 93 条 1 項)。
記述 イ ですが
民法第 94 条 1 項より、相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効です。そして、第 2 項により、善意の第三者に対抗することはできません。この 94 条 2 項における「第三者」とは、通謀虚偽表示に基づいて法律関係に入り、法律上の利害関係を有するに至った者のことをいいます。従って、利害関係を持った時点で善意であれば、その後に虚偽と知っても、当事者は無効を主張できません。記述 イ は誤りです。
記述 ウ ですが
民法第 94 条 1 項より、相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効です。そして、第 2 項により、善意の第三者に対抗することはできません。そして虚偽表示をなした者の帰責性は大きいため、「無過失」は不要です。「無過失であることが必要」ではありません。記述 ウ は誤りです。
※改正ポイント!
記述 エ は、出題当時の時点において、妥当です。民法改正により、95 条の錯誤については大きく変更があったため、注意が必要です。
錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合
1:相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
2:相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
のどちらかでなければ、95 条第 1 項に基づく取消しはできません。(改正民法 95 条第 3 項)。
参考 改正民法 95 条第1項
『意思表示は・・・錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。』
記述オ ですが
詐欺された者の要保護性が、強迫された者よりは低いことから、詐欺の場合は、善意の第三者に取消しを対抗できません。記述 オ は誤りです。この記述の正誤判定には関係ないですが、96 条 2,3 項は改正ポイントなのでしっかり意識しておきましょう。
※改正ポイント!
改正後 96 条 2 項
相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、『又は知ることができたときに限り』、その意思表示を取り消すことができる。
改正後 96 条 3 項
前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意『でかつ過失がない』第三者に対抗することができない。
以上より、正解は 2 です。
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