公務員試験 H28年 法務省専門職員 No.10解説

 問 題     

老年期の発達や心理的・社会的特徴に関する記述 A〜D のうち,妥当なもののみを挙げているのはどれか。

A.エリクソン(Erikson, E.H.)は,老年期の発達段階における心理・社会的危機を,「受容」対「喪失」とした。身体の機能の全般的弱体化,記憶の一貫性の喪失,生殖的機能の喪失などの変化を受容できるかどうかが,死がもたらす絶望感や不安を和らげ,それらを克服できるかどうかにつながるとされる。

B.キューブラー・ロス(Kübler-Ross, E.)は,死の受容について,「否認」,「怒り」,「取引」,「抑うつ」,「受容」から成る五つの段階モデルを提示した。「取引」の段階では,「良い行いをすれば,それだけチャンスを与えられるのではないか」と考え,どのような行いをすればよいか時間を掛けて考えて実行し,それがうまくいけば「抑うつ」の段階を経ずに,「受容」の段階にたどり着くとされる。

C.ライチャード(Reichard, S.)らは,老年期の適応に関して,「円熟型」,「安楽椅子型」,「装甲型(自己防衛型)」,「憤慨型(外罰型)」,「自責型(内罰型)」の五つの人格特性を示した。「安楽椅子型」は,他者に依存するという受け身的かつ消極的な姿勢であり,仕事に対する野心はなく,隠退しているという現在の状況に甘んじて楽に暮らそうとするタイプとされる。

D.シャイエ(Schaie, K.W.)は,高齢者を対象に推論能力と空間定位能力の訓練研究を行った。訓練の効果がどのような影響を及ぼすかを調べるため, 7 年後に同様の能力を測定すると, 7年前に訓練を受けた人の成績の低下は,訓練を受けていない人に比べて有意に小さいものであった。こうした結果は,加齢による知能の低下が,それらの能力を使わなくなるために起こるという可能性を示している。

1.A,B
2.A,C
3.B,C
4.B,D
5.C,D

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

記述 A ですが
エリクソンの発達理論において、老年期は「統合性 対 絶望」です。受容 対 喪失 ではありません。記述 A は誤りです。

記述 B ですが
前半は妥当です。キューブラー・ロスの「死の受容プロセス」です。後半部分ですが、「取引」の段階でうまくいけば「抑うつ」の段階を経ないというわけではありません。記述 B は誤りです。

記述 C は妥当です。
ライチャードによる高齢者のパーソナリティ 5 類型です。

記述 D は妥当です。
シャイエはシアトル縦断研究を行いました。これは7年ごとに7回(!)調査して、知能がどう変化するか、という研究です。そして、この研究対象から高齢者を抽出して行ったのがシアトル訓練研究です。この研究では帰納的推論と、空間的推論を対象としました。結果、訓練を受けたほうが、原則として、対照群と比べてその後ずっと優位に成績がよかったです。ただし空間定位能力については例外も見られました。

以上より、正解は 5 です。

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