公務員試験 H28年 国家一般職(行政) No.61解説

 問 題     

知覚や認知に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.風に流されている雲間の月を見ると,月を囲む雲が基準となって,静止した月が雲の動きと逆方向に動いて見える。この現象は月の錯視と呼ばれ,古くから知られている。実際には月だけでなく,太陽や星座についても見られる錯視であり,天体錯視という用語でまとめられる。

2.人間の両眼の瞳孔間の距離は約6 cm であり,対象を捉えている像は右眼と左眼とでわずかに異なる。手前から奥まで物がいろいろある部屋で,片眼を交互に閉じて観察してみると,左右の像が異なることが確認できる。一方,両眼で観察すると,知覚の恒常性のメカニズムが働き,二つの像ではなく統合された一つの世界が知覚される。

3.明るい場所から暗室に入ると,直後は光に対する眼の感度は低く,暗闇しか感じられないが,時間の経過とともに少しずつ周りの様子が見えるようになる。この過程を暗順応という。これは,視覚系の受容器である錐体と桿体のうち,桿体の機能が完全に発揮されるようになるまでには時間が掛かることから生じる現象である。

4.視覚をはじめとする各種感覚モダリティの知覚は,聴覚の影響を受けやすい。例えば,「ga」と言っている話者の顔の動きに,「ba」という音声を同期させた映像を見せると,音声としては「ga」と「ba」の間に位置付けられる「da」が聞かれる。このような現象は,カクテルパーティー効果と呼ばれる。

5.顔認知には,物体の認知にはみられない特性が数多くみられる。そのうちの一つとして,顔パターン処理の優位性を示す倒立効果が挙げられる。これは,物体は逆さまにして見ると認知が非常に困難になるが,顔の場合は逆さまにしても,正立のときと認知のしやすさがほとんど変わらないことをいう。

 

 

 

 

 

正解 (3)

 解 説     

選択肢 1 ですが
地平線からのぼり始めた月は大きく見え,空高くのぼっていくにつれて,小さくなるように見えます。太陽や星座でも見られる錯視であり「天体錯視」と呼びます。実際には静止している対象が、周囲の運動に伴い運動しているように見える現象は「誘導運動」です。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
「知覚の恒常性」とは、対象の大きさ、形、色、明るさなどの近くにおいて、受け取る情報が変化しても、ある範囲までは一定と感じるという現象のことです。このメカニズムにより統合された一つの世界が知覚されるわけではありません。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 は妥当です。
暗順応は、桿体細胞の中で、光を感じる物質が増えること、及び、増えるまでに少し時間が掛かることから生じる現象です。

選択肢 4 ですが
カクテルパーティー効果とは、音声の選択的聴取のことです。すなわち、人混みや雑踏の中でも、自分の興味あることや関係のあることについて選択的に聴き取れる効果のことです。「視覚などが聴覚の影響を受けやすい」という意味ではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
顔の要素を組み合わせた情報が、逆さ顔では見分けにくくなることを顔の倒立効果といいます。「逆さまにしても、正立のときと認知のしやすさがほとんど変わらない」わけではありません。わかりやすい例としてサッチャー錯視が知られています。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 3 です。

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