問 題
政治と世論に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.P.ラザースフェルドらは,エリー調査を始めとする一連の調査からマスメディアの世論への影響を分析し,ラジオ番組のキャスターやニュース解説者のようなオピニオンリーダーの発言が世論に大きな影響を与えることを明らかにした。
2.J.クラッパーは,20 世紀初頭に,マスメディアの世論への影響は限られたものであるとする限定効果説を唱えたが,その後のロシア革命やナチスの台頭過程などの経験を通じて,1960 年代にはマスメディアの大きな影響力を認める強力効果説が支配的な学説となった。
3.M.マコームズらは,マスメディアの報道が「いま政治で何が重要か」に関する世論の動向に影響を与えることを通じて,政策決定者による政策的な優先順位の決定にも影響を及ぼすとする,マスメディアの第三者効果仮説を提唱し,後に実証研究によってそうした効果の存在を確認した。
4.S.アイエンガーは,マスメディアが社会問題を取り上げる場合に,争点を描写する際のフレーム(切り口)の違いが,問題の責任をどこに帰属させるかという受け手の解釈に差をもたらした,としてフレーミング効果の存在を示した。
5.G.ガーブナーらは,マスメディアの伝える政治情報が,長期的には政治に関する市民の認知的な理解力を増大させ,結果として民主主義の質を高めるという,マスメディアの涵養効果の存在を主張した。
解 説
選択肢 1 ですが
ラザースフェルドらによるエリー調査によれば、人々はマスメディアから直接情報を受け取らず、所属地域のオピニオンリーダーを介したコミュニケーションの影響を強く受けます。「コミュニケーションの2段階の流れ仮説」と呼ばれます。「ラジオ番組のキャスターやニュース解説者」はマスメディアの人です。オピニオンリーダーではありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
クラッパーは、マスコミは先有傾向を〈強化〉する働きが強いという結論を引き出しました。これは、マスメディアの大きな影響力を認める強力効果説→エリー調査をふまえた限定効果説 という流れを受け、マスコミの影響力を過小評価しすぎているのではないかという反省をふまえて考察した結果です。とはいえ「強力効果説が支配的な学説となった」というわけではありません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
記述は「メディアの課題設定機能」と考えられます。第三者効果仮説とは、マスメディアがもたらす影響を他人事として考えることを指します。例えば「◯◯が健康にいい」とマスメディアが情報送信した時、「自分はそうは思わないが、周囲は影響を受け、スーパーから◯◯が消えそう」と考える、といったことです。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は妥当です。
アイエンガーの指摘したフレーミング効果についての記述です。
選択肢 5 ですが
涵養効果とは、メディアが人に与える長期的な影響のことです。ガーブナーらは、長期に渡りテレビを長時間見ることが、ある一定の価値観を身につけることにつながると考えました。「市民の認知的な理解力を増大させ」ると考えたわけではありません。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 4 です。
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