問 題
知能研究に関する記述として最も妥当なのはどれか。
1. フリン (Flynn, J. R.) は、複数の国で実施した知能検査のデータから、世代や文化が IQ に与える影響を調査した。その結果、1世代を約 30 年として、 12 歳程度までの子どもの IQ は世代を重ねるごとに上昇していく一方、成人の IQ には世代間で大きな変化はないことが見いだされた。こうした現象を考慮し、知能測定の妥当性を高めるため、子ども用の知能検査は 10 年程度の間隔をおいて新たな標準データに基づいて改訂することが望ましいとされる。
2. IQと遺伝に関して、バート (Burt, C. L. B.) は、異なる環境で育てられた一卵性双生児の IQ の相関を求める方法で研究を行い、その IQ の相関係数は 0.9 以上であることを示したが、後の研究者は、バートの双生児研究の信頼性に疑問を呈している。例えばブシャード (Bouchard, T. J.) らは、異なる環境で育った一卵性双生児の IQ の相関は 0.5 程度であることを示し、知能においては、遺伝と環境の影響が同程度にあると主張している。
3. シュミットとハンター (Schmidt, F. L. & Hunter, J. E.) は、知能テスト (GMA tests) 、 面接による人物評価、仲間からの評価、教育年数 (学歴) など様々な要因について、将来の勤務成績との相関を検討した。その結果、相関が高かったのは、面接による人物評価、仕事への興味、教育年数であり、知能テストとの相関は 0.3 程度と低かったことから、人物評価においては知能テストの結果を過度に重視してはならないとした。
4. ハイデ (Hyde, J. S.) は、各領域の知能には性差があるとみなし、男女の能力差を整理した性別異質性仮説 (gender differences hypothesis) を提唱した。しかし、後年の研究の結果、メンタルローテーションなどを行う視覚的処理能力、言葉の流暢性、知覚的速度などにおいては性差が認められず、性別類似性仮説 (gender similarities hypothesis) が支持されるようになった。
5. DSM-5 (精神疾患の診断・統計マニュアル) では知的能力障害の診断における IQ について、母平均の約2標準偏差以下であることとされている。IQ だけでみるとその分布が正規分布に従うとすれば、理論上は人口の約 2.3% が知的能力障害であることになるが、我が国で実際に知的能力障害の診断を受けている人数はそれよりも少ない。
解 説
選択肢 1 ですが
「世代が進むほどに IQ 」が、成人も子どもも上昇しているというフリン効果が知られています。ちなみに近年の研究によれば、最近は IQ 上昇は止まっていたり、減少傾向にあるというデータもあるようです。「成人の IQ に大きな変化がない」という記述は誤りです。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
バートの研究の信頼性には疑問が呈されていますが、複数の研究の結果、ブシャードらによる研究も含め、概ね一卵性双生児において、IQ の相関は 0.8 付近という結果がでています。「知能において、遺伝と環境の影響が同程度にあると主張」はしていません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
シュミットとハンターによるメタ分析の結果、面接による人物評価と将来の勤務成績との相関は低く、0.14 程度と報告されています。「面接では大してわからない」という話題で聞き覚えがあるのではないでようか。逆に高かったのは仕事と似たワークをやってもらうことや、一般的知能検査で、相関が 0.3 弱とされています。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
各領域の知能について、メンタルローテーション(頭の中で、与えられた図形を回転させる課題)では男性の方が、言葉の流暢性においては女性の方が有意差が見られることが知られています。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は妥当な記述です。
2 σから外れるのが大体 5% で、下側なので 約 2.5% です。大体 2.3% で妥当と考えられます。日本の人口を 1.2 億と仮定すれば 250 万人より多いぐらいです。現在日本の知的障害者の総数は 約 100 万人です。近年高齢者が急増している傾向にあります。※正規分布や σ について「?」と感じた人へ https://yaku-tik.com/yakugaku/kisu-4-2/(他サイト 正規分布の解説)
以上より、正解は 5 です。
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