公務員試験 H27年 国家一般職(行政) No.50解説

 問 題     

イノベーション・マネジメントに関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。

1. 経済学者 J.A.シュンペーターは、イノベーションのタイプを、①要素技術の変化と ②コンポーネントのつなぎ方の変化という二つの分類軸を用いて類型化している。このうち、① 及び ② のいずれも変化するタイプがモジュラー・イノベーション、① 及び ② のいずれも変化しないタイプがアーキテクチャル・イノベーションである。

2. デファクト・スタンダードに代わる新しい標準の確立によって、製品ライフサイクルの段階が成熟期から再び導入期へと移行する過程を R.M.ヘンダーソンらは脱成熟と呼んだ。この局面では、既存大企業と新興企業の競争力の逆転が頻発するが、これは既存大企業が既存製品に適した組織構造や生産システムに特化しているためである。既存大企業が新しい標準への対応に遅れる現象はモジュラリティ・トラップと呼ばれる。

3. 企業と供給業者・顧客との関係性である価値ネットワークを、変化させるのが分断的技術、強化するのが持続的技術である。分断的技術が開発される場合、価値ネットワークがリセットされるので、交渉力に勝る既存企業が新興企業を駆逐することになる。一方、持続的技術が開発される場合、既存企業には何の変化ももたらされないが、既存の価値ネットワークを模倣することができる新興企業の競争力は強化される。

4. 事実上の業界標準が形成されるような産業は、一般にネットワーク外部性が比較的強いという特色がある。ネットワーク外部性の直接効果は、その製品の利用者数が増加すること自体による便益の増大を表し、通信ネットワークなどに当てはまる。間接効果は、その製品の補完財が多様になったり、低価格になったりすることで便益が増大する効果で、我が国の家庭用ゲーム機などに当てはまる。

5. W.アバナシーらは、イノベーションの担い手としての企業家類型を、既存のマーケットにおいて既存技術を破壊するような新規技術を持ち込む企業家的企業家と、既存技術を強化しつつ新規市場を開拓することによってイノベーションを主導する市場志向的企業家のいずれかであるとした。後者は、既存の技術体系を破壊するイノベーションに対して極めて防衛的であるために、イノベーションが起こりにくくなる現象であるスタック・イン・ザ・ミドルに陥りやすい。

 

 

 

 

 

正解 (4)

 解 説     

選択肢 1 ですが
要素技術の変化がモジュラー・イノベーション、つなぎ方の変化がアーキテクチャル・イノベーションです。従って、「① のみ変化」がモジュラー・イノベーションです。「② のみ変化」がアーキテクチャルイノベーションです。ヘンダーソンとクラークによる分類です。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
「脱成熟」とは、新事業創造による事業構造転換や、既存事業を新商品、新ビジネスシステムなどにより再活性化することで、新たな成長軌道に乗せることです。「新しい標準の確立により・・・成熟期から再び導入期へと移行する過程」という表現は妥当ではないと考えられます。

また、モジュラリティ・トラップとは、製品アーキテクチャがインテグラル化する際、モジュール化した製品に適合した企業が対処できず、収益機会を逸してしまうという現象のことです。逆に、製品アーキテクチャがモジュール化する際、複数のコンポーネント生産・開発活動を行う垂直統合企業が対応できずに、収益機会を逸するのがインテグリティ・トラップです。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
価値ネットワークを変化させる分断的技術が開発される場合は、新興企業が既存企業に対して有利性を持ちます。既存システムにこだわったり、調整をする必要が相対的に小さいためです。「交渉力に勝る既存企業が新興企業を駆逐する」わけではありません。また、持続的技術が開発される場合は、既存企業、特に大企業が有利性を持つと考えられます。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 は妥当です。
ネットワーク外部性、間接効果についての記述です。

選択肢 5 ですが
スタック・イン・ザ・ミドルとは、トレードオフ関係にある2つの目的を同時に追求しようとして失敗することです。トレードオフとは、何かを達成するためには何かを犠牲にしなければならない関係のことです。「イノベーションに対して防衛的であるため、イノベーションが起こりにくい現象」ではありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 4 です。
類題 H26no50

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