公務員試験 H27年 国家一般職(行政) No.48解説

 問 題     

組織の構造や動態に関する次の記述のうち、妥当なのはどれか。

1. マトリックス組織には、機能部門の専門性を高めて規模の経済性を実現しやすいことや複数の命令系統によって意見調整の迅速化が図られ意思決定が速まるというメリットがあるが、環境変化に対応しにくいというデメリットもある。マトリックス組織のデメリットを解消するために考案されたのが事業部制組織であり、機能部門の抱える技術的問題と、事業部門の直面する顧客ニーズに同時に対応することによる環境適応と、資源の共有による規模の経済性を両立させることができる。

2. 生産システムの管理構造は、市場環境の安定性によって変化する。市場環境の安定性が高い場合は、顧客のニーズが特定のタイプに収斂しているということになるので、有機的管理システムである大規模なバッチ・大量生産又は装置生産が有効になる。安定性が低い場合は、多様なニーズに対応するために、機械的管理システムである単品・小規模なバッチ生産が採用されることになる。

3. O.E.ウィリアムソンによれば、取引コストの規定要因は少数性と資産特殊性の二つの要因から成っている。少数性が機会主義と結びついた場合、取引相手が少数であるほど、相手が不当な価格表示をした場合でも見破るのが容易であるので取引コストは低くなる。また、取引特殊的資産は、希少性と模倣困難性の二つの性質を持ち、取引特殊的資産が必要な取引においては、汎用的な技術や設備を用いて行われる市場取引よりも取引可能な相手の数は多くなる。

4. 組織が合理的かつ効率的に活動を続けるために、テクニカル・コアを環境の不確実性から隔離する方法として、H.A.サイモンは緩衝化と平準化の二つを発見した。緩衝化とは、病院が重症患者のためにベッドを空けておくように、優先順位の高い要求に資源を割り当てるものである。また、平準化とは、製造業企業が季節に応じて生産調整を行うように、環境変動の規則性やパターンを発見し、より確実な状況下で活動しようとするものである。

5. 組織デザインの在り方は、技術、市場での競争状況、産業の発展段階といった環境の諸条件に依存するという考え方をコンティンジェンシー理論という。他方、組織の変化が環境変化よりも遅い場合に構造的慣性が存在するとし、個々の組織ではなく、組織群のレベルで環境適応が行われるという考え方を組織の個体群生態学という。淘汰の結果、構造的慣性の強い組織が生き残ると考えられる。

 

 

 

 

 

正解 (5)

 解 説     

選択肢 1 ですが
マトリックス組織とは、「機能別組織」と「期間プロジェクト組織」の組み合わさった組織形態のことです。「環境変化に対応しにくい」ということはありません。記述は「機能別組織」です。事業部制組織とは、事業ごとに組織された組織形態です。本社部門の負担を減らし、それぞれの事業ごとに迅速な意思決定ができる点が特徴です。後半の記述はマトリックス組織についてと考えられます。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 ですが
T.バーンズ、G.M.ストーカーによる組織の分類によれば、市場環境の安定性が高い時に有効なのは「機械的管理システム」です。一方、市場環境の安定性が低い時に有効なのが「有機的管理システム」です。2つの名詞が逆です。選択肢 2 は誤りです。

選択肢 3 ですが
ウィリアムソンによれば、取引コストの規定要因は、人間の限定合理性と、機会主義的行動(自己利益を追求する行動)です。「少数性と資産特殊性」ではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
テクニカル・コアを環境の不確実性から隔離する方法として、緩衝化や平準化を発見したのは「トンプソン」です。H.A.サイモンは限定合理性を有する「経営人」モデルを提唱しました。(H26no49)。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 は妥当です。
組織デザインに関するコンティンジェンシー理論、及び、個体群生態学についての記述です。

以上より、正解は 5 です。

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