問 題
損失補償に関する ア~オ の記述のうち、妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。
ア. 日本国憲法は、財産権の保障とともに私有財産が公共のために用いられた場合の損失の補償についても明文で規定している。また、明治憲法においても、財産権の保障のみならず損失補償についても明文で規定していた。
イ. 都市計画法上の土地利用制限は、それのみで直ちに憲法第29条第3項にいう私有財産を公共のために用いることにはならず、当然に同項にいう正当な補償を必要とするものではないが,土地利用制限が 60 年をも超える長期間にわたって課せられている場合、当該制限は、制限の内容を考慮するまでもなく、権利者に受忍限度を超えて特別の犠牲を課すものであり、同項にいう私有財産を公共のために用いる場合に当たるものとして、損失の補償が必要であるとするのが判例である。
ウ. 土地収用法に基づく収用の場合における損失の補償には、収用される権利の対価の補償のみならず、営業上の損失、建物の移転による賃貸料の損失など、収用によって権利者が通常受ける付随的な損失の補償も含まれる。
エ. 公用収用の対象となった物が経済的価値でない歴史的・文化財的価値を有する場合、当該価値が広く客観性を有するものと認められるときは、損失補償の対象となるとするのが判例である。
オ. 公用収用における損失の補償は、土地等の取得又は使用に伴い当該土地等の権利者が受ける損失の補償に限られず、当該権利者以外の者に対して損失を補償する少数残存者補償や離職者補償についても、裁判上の請求権として法律上認められている。
1. イ
2. ウ
3. ア、オ
4. イ、エ
5. ウ、エ
解 説
記述 ア ですが
前半は妥当です。日本国憲法 29 条 3 項です。後半部分ですが、明治憲法には、所有権保障規定はあっても、損失補償に関する明文規定はありませんでした。立法政策問題とされ、個別法に補償規定が置かれていました。記述 ア は誤りです。
記述 イ ですが
「制限の内容を考慮するまでもなく」という部分に違和感を覚えてほしいところです。また、最判 H17 11/1 によれば、長期(60 年をも超える)に渡る土地利用制限について「未だ特別の犠牲を課せられたものということがいまだ困難」として、憲法 29 条 3 項に基づく損失補償はできない、と判断しています。記述 イ は誤りです。
記述 ウ は妥当です。
ちなみに、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」が定められています。
記述 エ ですが
最判昭63.1.21 によれば、輪中堤に関する事例について、文化財的価値について、経済的価値でない特殊な価値であり、補償対象にならないと判示しています。記述 エ は誤りです。
記述 オ ですが
本試験時点において、離職者に対する補償や少数残存者補償について、法律上認められた請求権として位置づけられてはいません。記述 オ は誤りです。
以上より、正解は 2 です。
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