問 題
不法行為に関する ア~オ の記述のうち,判例に照らし,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。
ア.契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には,当該一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき,不法行為による賠償責任のみならず,当該契約上の債務の不履行による賠償責任も負う。
イ.良好な景観の恵沢を享受する利益を侵害した者は,その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり,又は公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くか否かにかかわらず,不法行為による損害賠償責任を負う。
ウ.建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事監理者が,建物の建築に当たり,当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を怠ったために,建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり,それにより居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合には,設計者,施工者及び工事監理者は,不法行為の成立を主張する者が当該瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り,これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負う。
エ.責任能力のない未成年者の親権者は,直接的な監視下にない子の行動についても日頃から指導監督を確実に行うべきであるから,子が,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合であっても,子に対する監督義務を尽くしていなかったことを理由として,常に民法第 714 条に基づく損害賠償責任を負う。
オ.法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,その者に対し民法第 714 条に基づく損害賠償責任を問うことができる。
1.ア,イ
2.ア,エ
3.イ,ウ
4.ウ,オ
5.エ,オ
解 説
記述 ア ですが
最判 H23.4.22 によれば、債務超過の状態にあり、破綻認定を受ける危険性があった状況下であることを説明せずに個人および会社に出資をさせた事例において、不法行為を理由とする損害賠償責任を認めるにとどめる判決が下されています。すなわち、契約上の債務不履行による賠償責任も負うわけではありません。記述 ア は誤りです。(H30no26)。
記述 イ ですが
最判 H18.3.30 によれば、ある行為が良好な景観の恵沢を享受する利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには,少なくとも,その侵害行為が,刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり,公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど,侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められます。記述 イ は誤りです。
記述 ウ は妥当です。
最判 H19.7.6 の内容です。
記述 エ ですが
親権者にあまりにも過剰な責任を追わせる内容であり、明らかに誤りと判断できるのではないでしょうか。一例として、責任を弁識する能力のない未成年者が、サッカーボールを蹴って他人に損害を加えた場合において、その親権者が民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったとされた事例として、最判 H27.4.9 があります。記述 エ は誤りです。
記述 オ は妥当です。
最判 H28.3.1 の内容です。
以上より、正解は 4 です。
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