公務員試験 H28年 国家一般職(行政) No.24解説

 問 題     

先取特権に関するア〜オの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし,争いのあるものは判例の見解による。

ア.先取特権は,法律上当然に生ずる法定担保物権であり,当事者間の契約で発生させることはできない。また,先取特権は,担保物権の性質である付従性,随伴性,不可分性を有している。

イ.先取特権には,債務者の総財産を目的とする一般の先取特権と債務者の特定の財産を目的とする特別の先取特権とがある。一般の先取特権によって担保される債権は,その性質上特に保護されるべきもので,かつ,債権額の過大でないものに限定される必要があり,民法は,共益費用,雇用関係,旅館の宿泊及び日用品供給の四種の債権について,一般の先取特権を付与している。

ウ.動産の先取特権は,債務者の特定の動産を目的とする先取特権である。動産の先取特権は,その目的である動産が第三者に譲渡されても影響を受けることはなく,債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後であっても,これを行使することができる。

エ.不動産の賃貸人は,その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた債権について,賃借人の特定の動産について先取特権を有する。賃貸人の先取特権は,建物の賃貸借の場合,賃借人がその建物に備え付けた動産が目的物となるが,賃借人が建物内に持ち込んだ金銭,有価証券,宝石類など必ずしも建物に常置されるものではない物は,目的物とはならない。

オ.一般の先取特権は,不動産について登記をしなくても,特別担保を有しない一般債権者はもとより,抵当権者など登記を備えた特別担保を有する第三者にも対抗することができる。これは,一般の先取特権は,債権の性質上登記を要求することが困難であり,債権額も比較的少額であることから,登記がなくても他の債権者を害するおそれはないという理由で認められた民法の特則である。

1.ア
2.オ
3.ア,ウ
4.イ,エ
5.ウ,オ

 

 

 

 

 

正解 (1)

 解 説     

記述 ア は妥当です。
先取特権とは、債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利のことです。(民法第 303 条)。法定担保物権であり、付従性、随伴性、不可分性を有します。

記述 イ ですが
一般の先取特権は、共益費用、雇用関係、「葬式の費用」、日用品供給の四種の債権について付与しています。(民法第 306 条)。「旅館の宿泊」ではありません。記述 イ は誤りです。

記述 ウ ですが
債務者が目的動産を第三取得者に引き渡した後は、先取特権が行使できません。(民法第 333 条)。「行使することができる」わけではありません。ちなみに、この引き渡しは「占有改定」を含みます。記述 ウ は誤りです。

記述 エ ですが
建物の賃貸人の先取特権の目的物は、常置を要せず、金銭・有価証券、懐中時計・宝石類などにも先取特権は存在するとされています。(民法第 313条、大判大3.7.4)。従って、記述 エ は誤りです。

記述 オ ですが
一般の先取特権は、特別担保を有する第三者には劣後します。(民法第 336 条)。「抵当権者など登記を備えた特別担保を有する第三者にも対抗できる」わけではありません。記述 オ は誤りです。

以上より、正解は 1 です。

コメント