問 題
債権譲渡に関するア~オの記述のうち、妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。ただし、争いのあるものは判例の見解による。
ア. 債権は、債務者の承諾がなくても、債権者である譲渡人と譲受人との合意だけで譲渡し得るのが原則であるが、法律によりその譲渡が禁止されているときは譲渡することができず、例えば、扶養を受ける権利はこれに当たる。
イ. 譲渡禁止特約は、善意の第三者には対抗することができないが、特約の存在を知っていた悪意の第三者には対抗することができる。このことは、実質的には債権譲渡と同じ効果をもつ転付命令にも当てはまり、譲渡禁止特約のある債権が差し押さえられた場合において、差押債権者が転付命令を得た時に譲渡禁止特約を知っていたときは、差押債権者は、特約の対抗を受け,当該差押えは無効となる。
ウ. 指名債権の譲渡の第三者に対する対抗要件として確定日付ある証書による通知又は承諾が要求されているのは、当事者の通謀により譲渡の通知又はその承諾のあった日時を操作することを防止することにあり、債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互間の優劣は、通知又は承諾に付された確定日付の先後によって決せられる。
エ. 指名債権の譲渡に関する債務者の異議をとどめない承諾に抗弁喪失の効果が認められているのは、債権の譲受人の利益を保護し一般債権取引の安全を保障するために法律が付与した法律上の効果と解すべきであり、悪意の譲受人に対しては、異議をとどめない承諾による保護は与えられない。
オ. 動産・債権譲渡特例法(注)により、法人は、債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記をすることにより、債務者に知らせずに債権譲渡の第三者対抗要件を具備することができる。しかし、集合債権及び債務者が不特定の将来債権については、この債権譲渡登記ファイルへの登記が認められていないため、これらの債権について第三者対抗要件を具備するためには、民法の原則どおり、債務者ごとに確定日付ある証書による通知又は承諾を得ることが必要である。
1. アエ
2. アオ
3. イウ
4. イエ
5. ウオ
(注) 「動産・債権譲渡特例法」とは「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に
関する法律」を指す。
解 説
改正ポイント!
記述 ア は妥当です。
民法第 466 条 1 項です。債権は譲り渡すことができます。ただし、性質が許さない場合はこの限りではありません。
記述 イ ですが
改正民法により、譲渡制限の意思表示をしたときであっても、債権譲渡は効力を妨げられない、とされました。もともとは、善意の第三者に対抗できないだったため、前半部分は妥当な記述でした。改正により、前半部分が妥当ではありません。記述 イ は誤りです。
後半部分についてですが、かつては判例法理により、譲渡は有効と解されていました。さらに、改正後民法 466 条 3 項の新設により、譲渡制限の意思表示をした場合、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。と明文化されました。
記述 ウ ですが
債権の二重譲渡では、両者の優劣は、通知の到達日の先後で決します。「確定日付の先後」ではありません。記述 ウ は誤りです。
記述 エ ですが
改正民法により、異議をとどめない承諾による抗弁権の切断についてのルールが削除されました。記述 エ は試験時点で妥当でした。改正後民法では、妥当ではありません。注意しましょう!
記述 オ ですが
集合債権や、債務者不特定の将来債権であっても、譲渡登記制度に基づく登記が認められています。この制度により、民法の原則に対する特例として、債務者が多数に及ぶ場合でも簡易に第三者対抗要件を備えることができます。記述 オ は誤りです。
以上より、本試験時点において、正解は 1 です。民法改正後は エ が妥当ではなく、正解はなしとなります。
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