公務員試験 H30年 法務省専門職員 No.46解説

 問 題     

ソーシャルワークの発展に影響を与えた人物に関する記述として最も妥当なのはどれか。

1.M.リッチモンドは,シカゴに創設したハル・ハウスを拠点にセツルメント運動を展開し,後に「ケースワークの母」と呼ばれた。また,『ソーシャル・ケース・ワークとは何か』の中で,ケースワークを「自発的なグループ参加を通して個人の成長と社会的適応を図る教育的過程である」と定義し,ケースワークを体系化した。

2.V.ロビンソンは,O.ランクの意志心理学を基に,『ケースワーク心理学の変遷』を著し,機能的アプローチを発展させた。機能的アプローチの特徴として,①「疾病の心理学」よりも「成長の心理学」,②「治療」よりも「援助」,③機関の機能の枠に沿った援助,④援助の過程を開始期・中間期・終結期に分けて捉えるなどの点が挙げられる。

3.H.パールマンは,『ソーシャル・ケースワーク-問題解決の過程-』の中で,個別援助を成立させるための構成要素には,人(person),問題(problem),場所(place),定時性(punctuality),制度(provision)の「五つのP」があるとした。また,個別援助技術を用いて,利用者の潜在的な能力を発揮させるように働きかける援助者の力を「ワーカビリティ(workability)」と呼んだ。

4.F.ホリスは,『ケースワーク-心理社会療法-』を著し,利用者が本来持っている力を発揮して環境に働きかけ,生活上の課題を解決していけるように側面的に支援するエンパワメントの概念をケースワークに導入した。また,利用者と環境との相互の関係性を図式で表現する「エコマップ(eco map)」という技法を考案した。

5.H.バートレットは,『社会福祉実践の共通基盤』の中で,社会福祉実践において援助者と利用者の間の援助関係を構築する際の原則として,「人間の尊厳」,「社会正義」,「誠実」の三つを挙げた。また,社会福祉援助実践に当たっては,利用者の「社会生活機能」を重視すべきであるとし,これを,「心身機能・身体構造」,「参加」,「活動」の三つの次元で捉えた。

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

選択肢 1 ですが
ハル・ハウスは、ジェーン・アダムズが、エレン・ゲイツ・スターと共同設立した慈善施設セツルメントハウスです。(H27no47)。リッチモンドが創設したわけではありません。リッチモンドがケースワークの母と呼ばれ、体系化したという流れの記述は妥当です。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 は妥当です。
機能的アプローチは、タフト(Taft, J.)とロビンソン(Robinson, V.)によって、ランク(Rank, O.)の意志心理学(will psychology)の考え方を基盤として確立、発展し、その後スモーリー(Smalley, R.)が継承しています。

選択肢 3 ですが
パールマンが提唱したのは、人、問題、場所、過程(Process)の「四つの P」です。「五つの P」ではありません。また、ワーカビリティは「利用者=クライエント」の能力のことです。具体的には、クライエントがワーカーの働きかけに応じられる知的・情緒的・身体的能力、意欲です。「援助者の力」ではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
ホリスは心理社会的アプローチを提唱しました。「状況の中の人」という視点に立ち、個人の病理だけでも、環境の圧力だけでもなく、両者の相互関係の結果としてクライエントの課題を捉える見方です。エンパワーメントの概念を導入したのは B.ソロモンです。また、エコマップは、アン・ハートマンが考案しました。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
バートレットは、社会福祉実践の共通基盤の中で「アセスメント」という用語を初めて使用しました。また、社会福祉援助に共通する構成要素として「価値」、「知識」、「介入」の 3 つをあげました。また、『社会生活機能」という概念を唱え、「社会環境からの要求」と「人々の対処努力」の間の交換・均衡に焦点を合わせることを提唱しました。「心身機能・身体構造」、「参加」、「活動」という3つで捉えるのは ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)による分類です。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

コメント