問 題
イノベーションに関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.E.V.ヒッペルは,企業が主体的にユーザーのニーズに関する調査を詳細に行った上で,そのデータ分析を行い,そこから製品のアイデアを練り上げてゆくことをユーザー・イノベーションと呼んだ。ユーザー・イノベーションにおいては,ユーザーが製品開発上の問題を解決することは行わないものの,企業に対して情報提供を積極的に行う。
2.C.M.クリステンセンは,かつてはイノベーターであり新技術の開発にも積極的であった既存大企業が,製品の優位性に信頼を置くあまり顧客の評価を徐々に軽視するようになり,やがて持続的イノベーションに優位性をもつ新興企業に取って代わられ衰退してしまう現象をイノベーターのジレンマと呼んだ。
3.ある産業において,流動期を経て大方のユーザーの要求を満足させるドミナント・デザインが一旦確立した後は,産業の成熟化が進む。W.アバナシーらは,成熟化は不可逆的な性質を有するため,成熟した産業は再び流動期に戻ることはなく,成熟化の期間を一定期間経た後は,必然的に衰退期に移行するとした。
4.イノベーションを生み出す誘因について,テクノロジー・プッシュとは技術の進歩が新しい製品の開発を刺激し,結果としてイノベーションが生じるとする考え方であり,ディマンド・プルとは市場のニーズが端緒となって研究・技術開発活動が刺激され,その結果としてイノベーションが生じるとする考え方である。
5.E.M.ロジャーズは,新製品を採用するまでの時間に応じて顧客を五つのカテゴリーに分類した。このうち,初期少数採用者と定義される,新製品を採用する時期が最も早い顧客は,周りの人々の購買行動に大きな影響を与えるオピニオンリーダーとしての性格を有する者であり,全体の約25 % を占めている。
解 説
選択肢 1 ですが
ヒッペルが提唱したユーザー・イノベーションとは、ユーザー自らが、自分のために独自の製品やサービスを開発したり、既存の製品やサービスを改良したりするなどして、イノベーションを生み出すことです。「ユーザーが製品開発上の問題を解決することは行わない」わけではありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
イノベーターのジレンマは、イノベーションのジレンマとも呼ばれ、かつてはイノベーターであった巨大企業が新興企業の前に力を失う理由を説明した企業経営の理論です。クレイトン・クリステンセンが提唱しました。(H28no49)。具体的には、持続的イノベーションに優位性を持つ既存大企業が、破壊的イノベーションを軽視することで、新興企業に取って代わられ衰退してしまうという理論です。「製品の優位性に信頼を置くあまり顧客の評価を徐々に軽視」「持続的イノベーションに優位性をもつ新興企業に取って代わられ」ではありません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
製品ライフサイクルの段階が成熟期から再び導入期へと移行する過程を脱成熟といいます。アバナシーらはこの脱成熟を引き起こす要因として,新たな技術的選択肢の出現,顧客の需要の変化,規制などの政府の政策の三つを挙げています。「成熟した産業は再び流動期に戻ることはなく・・・,必然的に衰退期に移行する」わけではありません。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 は妥当です。
テクノロジー・プッシュ、ディマンド・プルについての記述です。(H26no46)。
選択肢 5 ですが
ロジャーズのイノベーター理論によれば、新製品を採用する時期が最も早い顧客はイノベーター(革新者)です。全体の 2.5%とされます。次の段階の初期採用者がアーリーアダプターです。オピニオンリーダーとも呼ばれ、商品の普及の大きな鍵を握るとされています。全体の約 13.5% を占めるとされます。選択肢 5 は誤りです。
以上より、正解は 4 です。
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