公務員試験 2020年 国家一般職(行政) No.15解説

 問 題     

司法権に関するア~オの記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。

ア.法律上の争訟は,当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって,かつ,それが法律を適用することにより終局的に解決することができるものに限られるため,具体的事件性を前提とせずに出訴できる制度を法律で設けることはできない。

イ.特定の者の宗教法人の代表役員たる地位の存否の確認を求める訴えは,その者の宗教活動上の地位の存否を審理,判断するにつき,当該宗教団体の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理,判断することが必要不可欠である場合であっても,法律上の争訟に当たるとするのが判例である。

ウ.法律が両院において議決を経たものとされ適法な手続により公布されている場合,裁判所は両院の自主性を尊重すべきであり,同法制定の議事手続に関する事実を審理してその有効無効を判断すべきではないとするのが判例である。

エ.衆議院の解散は,極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であり,その法律上の有効無効を審査することは,当該解散が訴訟の前提問題として主張されている場合においても,司法裁判所の権限の外にあるとするのが判例である。

オ.自律的な法規範を持つ社会ないし団体にあっては,当該規範の実現を内部規律の問題として自主的措置に任せるのが適当であるから,地方公共団体の議会の議員に対する懲罰議決の適否については,それが除名処分である場合も含めて,裁判所の審査権の外にあるとするのが判例である。

1.ア,イ
2.ア,オ
3.イ,ウ
4.ウ,エ
5.エ,オ

 

 

 

 

 

正解 (4)

 解 説     

記述 ア ですが
原則として、法律上の争訟には具体的事件性が必要です。しかし、民衆訴訟と言われる制度(公職選挙法 203 条・204 条の選挙訴訟、地方自治法 242 条の 2 の住民訴訟)のように,具体的事件性を前提とせずに出訴する制度を、とくに法律で設けている場合があります。「具体的事件性を前提とせずに出訴できる制度を法律で設けることはできない」わけではありません。記述 ア は誤りです。

記述 イ ですが
板まんだら事件(最判 S56.4.7) によれば、宗教上の教義や信仰の内容に関する判断が、紛争解決に本質的に求められるようなケースは、法律上の争訟ではありません。記述 イ は誤りです。

記述 ウ は妥当です。
警察法改正無効事件(最判 S37.3.7) の内容です。

記述 エ は妥当です。
苫米地事件(最判 S35.6.8) の内容です。統治行為論という考え方を示した判例の1つです。

記述 オ ですが
村会議員出席停止事件(最判 S35.10.19) によれば、地方議会議員の懲罰について、除名と出席停止を区別し、除名処分については司法審査の対象となります。「除名処分である場合も含めて,裁判所の審査権の外にあるとするのが判例」ではありません。記述 オ は誤りです。

以上より、正解は 4 です。

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