問 題
市民参加に関する ア~エ の記述のうち,妥当なもののみを全て挙げているのはどれか。
ア.H.アレントは,社会的領域とは,国家が支配する場所や個人や集団が私的な経済的利益を追求する場所ではなく,人々が全員に共通する事柄をめぐって,異なった意見を自由に表明できるような開かれた共通の場であるとした。そして,社会的領域の要求が政治に入力されることを肯定的に評価した。
イ.J.ハーバーマスは,公職者だけが公共性を実現するという従来の考え方を転回し,市民社会において「強制されたコミュニケーション」を通じて公共的な意見が形成され,市民的公共性が成立しているとした。しかし,彼によると,公共的な意見は議会や裁判所のような公式の制度における決定の正統性に影響を与えることはない。
ウ.C.ペイトマンは,デモクラシーの根幹は市民が自分たちに関わる事柄を決めるという自己決定にあるとした。しかし,市民は私的・経済的利益を守ることのみに熱心であり,公的決定をエリートに任せきりにしていたため,もはや,政治や社会を動かすことができるという政治的有効性感覚を持つことはないとした。
エ.J.フィシュキンは,国民の関心が高く論争的なテーマについて,無作為抽出によって全国民から選ばれた参加者が討議し,その前後の意見を調査する「討論型世論調査」を実施した。彼によると,参加者は討議後には問題に対する理解を深め,討議に参加する以前に自分が抱いていた意見や選好を変容させる可能性がある。
1.ア
2.エ
3.ア,イ
4.イ,ウ
5.ウ,エ
解 説
記述 ア ですが
H.アレントやハーバーマスが重要視した、人々が全員に共通する事柄をめぐり、意見を自由に表明できるような共通の場は「公共圏」です。(参考 H29no1 肢 5)。社会的領域ではありません。記述 ア は誤りです。
記述 イ ですが
ハーバーマスは「公共圏を取り戻し、対話的理性の重要性を訴えた」人です。(H29no1)。「公共的な意見は、・・・公式の制度における決定の正統性に影響を与えることはない」のであれば、対話的理性が重要である ということと矛盾する、と感じるのではないでしょうか。記述 イ は誤りです。
記述 ウ ですが
C.ペイトマンは、参加民主主義を理論化し,民主政治の立て直しには市民がコミュニティに直接参加し,自らの要求を実現させていくことが重要であると主張しました。また,そうした参加は社会への帰属感,政治的な見識,政治的有効感などを高める役割をも果たすとしました。(H29no2)「もはや,政治や社会を動かすことができるという政治的有効性感覚を持つことはない」としてはいません。記述 ウ は誤りです。
記述 エ は妥当です。
熟議民主主義の専門家であるフィッシュキンの、討論型世論調査の設計に関する記述です。
以上より、正解は 2 です。
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