公務員試験 2019年 国家一般職(行政) No.54解説

 問 題     

人道的介入に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。

1.冷戦期と冷戦後の人道的介入の共通点としては,いずれも人道的な危機への対応ではなく戦略的な利害が重要な動機となっていることや,一国の単独介入が中心であることが挙げられる。冷戦期に,国際連合安全保障理事会において人道的介入として決議されたケースとしては,インドによるパキスタンへの介入やベトナムによるカンボジアへの介入がある。

2.内戦状態にあったソマリアにおける飢餓の悪化に対応するため,国連は第一次国連ソマリア活動を派遣して停戦監視に当たった。その後,食糧物資の略奪や人道支援団体への武力攻撃が頻発したため,米軍主導の多国籍軍と武装解除を行う第二次国連ソマリア活動が展開したが,武装勢力との戦闘により多数の死傷者が出る事態に至り撤退した。

3.1992 年,ボスニア・ヘルツェゴビナでは,多数派のセルビア系住民と少数派のムスリム系住民との間で,ボスニア紛争が起こった。国連安保理は国連保護軍の派遣を決定し,重装備の国連保護軍に強制的な武装解除を行わせた。これにより,北大西洋条約機構(NATO)軍による本格的な軍事介入に至らず事態が収束した。

4.ルワンダでは,80 万人以上が犠牲になったといわれるルワンダ大虐殺が起こり,これを受け,国連ルワンダ支援団が武装解除のため派遣された。しかし,国連ルワンダ支援団は戦闘の激化により撤退を余儀なくされ,その後,国連安保理決議を受けて派遣された NATO 軍の地上部隊が戦闘を制圧したものの,100 万人規模の難民が隣国に流出することとなった。

5.コソボ紛争では,1999 年に,アルバニア系住民の虐殺を防ぐという目的で,NATO 軍がセルビアに対して地上軍を投入したが,この軍事介入は国連安保理決議を経ずに行われた。このため,NATO 軍の軍事介入は違法なものであり,事後的に国連安保理決議によって正当性が否定されることとなった。

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

選択肢 1 ですが
冷戦期は一国の単独介入が中心でした。インドによるパキスタンへの介入や、ベトナムによるカンボジアへの介入に加え、タンザニアによるウガンダへの軍事介入があげられます。これらの介入は、安保理および総会において国際社会の支持を得ることはありませんでした。「冷戦期に,国際連合安全保障理事会において人道的介入として決議されたケースとしては,インドによるパキスタンへの介入やベトナムによるカンボジアへの介入がある」わけではありません。選択肢 1 は誤りです。

選択肢 2 は妥当です。

選択肢 3 ですが
ボスニア・ヘルツェゴビナへ国連軍派遣 → NATO 空軍の支援を受ける、という流れで事態が進行しました。「NATO 軍による本格的な軍事介入に至らず事態が収束した」わけではありません。選択肢 3 は誤りです。

選択肢 4 ですが
ルワンダ内戦は、RPF(ルワンダ愛国戦線)が全土を完全制圧し、ツチ系による新政権が発足して紛争は終結しました。「国連安保理決議を受けて派遣された NATO 軍の地上部隊が戦闘を制圧」したわけではありません。選択肢 4 は誤りです。

選択肢 5 ですが
コソボ紛争における NATO 軍の軍事介入について、国連安保理決議を経ずに行われました。この人道的介入について、コソボ独立委員会は、空爆は違法ではあったが「正当」であったという結論を出しました。「事後的に国連安保理決議によって正当性が否定」されたわけではありません。選択肢 5 は誤りです。

以上より、正解は 2 です。

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