問 題
アメリカ行政学の学説に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.後に第28 代米国大統領となるW.ウィルソンは,論文「行政の研究」の中で,行政の領域を司法固有の領域の外にある「政治の領域」として捉え,司法から切り離された行政と猟官制を確立する必要性を説いた。
2.F.グッドナウは,『政治と行政』で,政治と行政の関係性を考える中で,政治を住民意思の表現,行政を住民意思の執行であるとして,民主政治の下では住民意思の執行である行政に対する政治的統制は,いかなる場合においても行われるべきではないとした。
3.P.アップルビーは,行政とは政策形成であり,一連の政治過程の一つとしていたが,ベトナム戦争での行政官としての職務経験から,政治と行政の断絶性を指摘するようになり,後に政治行政二分論を唱えた。
4.L.ギューリックは,W.タフト大統領による節約と能率に関する大統領委員会に参画した際,組織管理者の担うべき機能として,忠誠心,士気,意思疎通という三つが行政管理において重要であるとし,それらの頭文字による POSDCoRB という造語を示した。
5.新行政学運動は,既存の行政学の関心は検証可能な科学的知識にあると捉え,それに対し,これからの行政学にとって重要なのは,より社会に対して有意な指針となる規範的な知識や,社会的公正(公平)という価値への関与であるとする運動である。
解 説
選択肢 1 ですが
ウィルソンは、現代行政学の開祖と呼ばれる人です。ペンドルトン法成立を背景として書かれた『行政の研究』で、実務的に政治と行政の分離(政治行政二分論)を唱え、猟官制の抑制と近代的官僚制の再導入を提唱しました。(H29no6)。「司法から切り離された行政」「猟官制を確立」ではありません。選択肢 1 は誤りです。
選択肢 2 ですが
F.グッドナウは,その著書である『政治と行政』において,政治とは国家意思の表現であり,行政とは国家意思の執行であるとしました。そして,政治による統制が必要なのは,行政の機能のうち,法律の執行機能についてであると主張しました。(H29no6)。「行政に対する政治的統制は、いかなる場合においても行われるべきではない」と主張したわけではありません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
政治行政二分論を唱えたのは、ウィルソンです。アップルビーは、「行政とは政策決定であり・・・政治過程のひとつ」と述べ、政治・行政融合論を提唱した人です。(H29no6)。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
ギューリックは、組織の最高管理者が担うべき管理機能として、七つの機能を列挙し,大規模な組織ではこれらの管理機能を分担して最高管理者を補佐する中枢管理機関の分化が必要であると考えました。7つの機能の頭文字を並べたのが POSDCoRB です。「三つ」ではありません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は妥当です。
以上より、正解は 5 です。
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