問 題
平等に関する次の記述のうち,妥当なのはどれか。
1.J.ロールズは,『正義論』において,正義の第一原理として「平等な自由の原理」,第二原理として「格差原理」を示した。このうち,第一原理における自由とは,最低限の市民的・政治的自由に限られず,自由一般を指す。また,第二原理においては,全ての市民の間に絶対的な平等を達成することが求められると主張した。
2.R.ノージックは,警察・国防業務と私的な契約の執行のみを担う最小国家の構想を批判した。そして,国家が再分配政策を用いて,富裕層の保有資源を貧困層に移転することは,富裕層の合理的な意思に基づくものであるとして,正当化されるとした。
3.M.サンデルは,国家が行う様々な政治活動を,他者と共有する共通善の実現活動として捉える考え方を批判した。そして,平等で正義にかなった意思決定を行うためには,共同体の規範とは独立した目的や独自の善悪の観念を持ち,何の負荷も課されていない自己として思考することが条件であると主張した。
4.K.マルクスは,資本主義社会においては,個々の資本家と労働者は法的に自由で対等な個人として契約を結ぶことができないと主張した。したがって,資本家階級と労働者階級の間の不平等を解消するため,私的財産制度を存続させつつ計画経済を軸とする共産主義社会に移行しなければならないとした。
5.A.センは,単に資源配分の平等性だけでなく,人間が現実に享受する「福利」の平等を保障すべきであるとした。また,各人が多様な資源を活用して自らの生の質を高め福利を実現するための能力を「潜在能力」と呼び,この能力の平等化を目指すべきと主張した。
解 説
選択肢 1 ですが
ロールズは、正義と善を切り離し、様々な善の構想に対し、中立的に制約する規範を正義としました。このように、正義が善の追求を制約しうる立場(正の善に対する優先権)を義務論的リベラリズムと言います。(H26no2)。格差原理は、正義の原理の一つで,その内容は最も不利な立場におかれた人の利益の最大化です。「全ての市民の間に絶対的な平等を達成することが求められる」という原理ではありません。
選択肢 2 ですが
ノージックは『アナーキー・国家・ユートピア』の著者です。リバタリアニズムの代表的思想家です。個人的な自由、経済的な自由の双方を重視し、究極的には国家や政府の廃止を理想とする思想を持ちます。最小国家の構想を支持しました。「最小国家の構想を批判した」わけではありません。選択肢 2 は誤りです。
選択肢 3 ですが
M.サンデルは、コミュニタリアニズム(共同体主義)の代表的論者です。特徴は共通善を強調する点です。「共通善・・・として捉える考え方を批判」したわけではありません。選択肢 3 は誤りです。
選択肢 4 ですが
マルクスは、生産手段の国有化を通じ、資本家の私的利潤追求による搾取構造をなくすことによる格差の無い社会実現を目指しました。「個人として契約を結ぶことができない」、「私的財産制度を存続させつつ」という主張ではありません。選択肢 4 は誤りです。
選択肢 5 は妥当です。
センの「潜在能力」についての記述です。参考 H28no55
以上より、正解は 5 です。
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