R6年 大規模大気特論 問1 問題と解説

 問 題     

下の図の説明に続く記述として、誤っているものはどれか。

図中の実線は、乾燥した冬の日の低層大気中の気温分布を表したものとする。P点付近の気塊が下方に移動したとき、その温度は矢印のように上昇した。

  1. 矢印の傾きdT/dzは-γddは乾燥断熱減率)である。
  2. 低層大気中の気温減率は平均的に約9.8℃/kmである。
  3. 図中の矢印の先端方向へ変位した気塊は、周囲よりも密度が小さくなる。
  4. 周囲の気温より温度が高くなった気塊には上昇に転ずる力が働く。
  5. 上下方向の変位に対して反転力が働く図中の実線の気温分布を、熱的に安定という。

 

 

 

 

 

正解 (2)

 解 説     

1問目からやや難易度の高い問題です。悪問・奇問というわけではないので、余裕があれば押さえておきたい知識ですが、ご自身の学習状況や理解度によっては後回しにしても構わないと思います。

(1)は正しいです。乾燥断熱減率γdは、乾燥した空気塊が断熱的に上下移動するときの温度変化率であり、その値は約9.8℃/km(0.0098℃/m)です。また、矢印が示す温度変化は、気塊が移動したときの断熱的な温度変化を表しているため、矢印の傾きdT/dzは-γdとなります。

(2)が誤りです。(1)の解説の通り、低層大気の乾燥断熱減率γdは、約9.8℃/kmです。これは重要事項として覚えておくべき数値なので、これを踏まえると(2)が正しいと勘違いしてしまいそうですが、(2)では「乾燥断熱減率」ではなく「平均的な気温の減率」である点に注意してください。

実際の大気中では断熱状態というのは現実的でなく、日射や赤外放射、空気の移動などの影響を受けます。そのため、低層大気中の実際の気温減率(環境減率といいます)は、一般的に約6~7℃/kmとなります。

この値を覚える必要は特にないと思いますが、実際の大気中では環境からの影響が無視できないほど大きいので、乾燥断熱減率と同じ値にはならない…と考えることができれば、(2)の記述が誤りだと判断することができます。

(3)は正しいです。図中の矢印の先端は、実線で示される周囲の気温よりも高いことがわかります(同じ高さでの比較)。気体の密度は温度に反比例するため、この気塊の密度は周囲の密度よりも小さくなります。

(4)も正しいです。(3)の解説の通り、この気塊は周囲の気温よりも高温であり、密度が低くなるため、浮力が発生します。この浮力によって、気塊は上昇しようとします。

(5)も正しいです。今回の場合、P点付近の気塊が下方に移動したとき、気塊の温度が上がって浮力が発生しています。つまり、一度下方に移動した気塊が元の位置に戻るような力(反転力)が働いているということです。

熱的に安定な大気とは、今回のように、空気塊が垂直方向に移動した際に元の位置に戻ろうとする性質を持つ状態を指します。

以上より、正解は(2)となります。

冒頭に示した通り、これはやや難易度の高い問題といえます。類題を解いて力を付けておきたい受験者の方は、H30年 問3を参照してください。

コメント